52.剛腕赤毛の武勇伝(2)
ビルは目がいいだけである。身体強化を魔法で行えば、飛竜を投げる力はあるが。リサは足が速い。1人なら魔法で強化して逃げ切れるかも知れない。ティムは体が大きく素の状態で力も強い。しかし魔法が苦手だ。強化だけはだいぶ慣れてきたが、咄嗟に戸惑って魔法が切れたら危険である。
「フィル班長」
スーザンが冷静に声をかける。
「棘草あるんじゃないすか」
「ぼくもそう思うよ」
皆は魔力が抜けていくのを感じていた。現状を改善出来る可能性は、フィリップ班長とスーザンの規格外コンビにある。2人が倒れたら、四方からラスカルジャークに襲われる不運を切り抜けるのは難しい。
「棘草、あっちに」
ビルが見つけたのは、右手に迫る小型ラスカルジャークの大群の近くだ。針玉のようなラスカルジャークたちは、棘草の薮を抜けてくる。魔力を吸い取られた針玉たちがバタバタと倒れ数を減らす。それでもまだまだ大量にいる。
「まずはあれを片付けようか」
フィリップ班長はにっこり笑うと針玉の方へと走り出す。この針には猛毒がある。
「スー、炎はいける?」
「問題ないっす!」
「じゃ、スーついてきて!」
他の3名はバックアップだ。とはいえ、2人と違って多様な魔法を使うことはできない。飛竜投擲部隊も騎士団の一部なので、一応は帯剣している。3人は全身に強化をかけると前以外の三方を向いて剣を抜く。
前方へと魔法で火を放ちながら、フィリップ班長とスーザンが斜面を駆ける。太い幹や曲がった枝を避け、浮き出た木の根を飛び越えてゆく。
「壁を」
「うす!」
スーザンとフィリップは、ラスカルジャークの毒針を避ける魔法の壁を展開する。棘草に吸われて魔力は減っているがまだ普通に使える2人である。
「焼き払おう」
「うす!」
針玉全体に火を放つ。木々には燃え移らないように、薄い膜で山の植物を覆う。ラスカルジャークが嫌な臭いを出しながら次々灰になる。
「あれだ」
「うす!」
針玉の群れをあらかた焼き、ようやく棘草の群落にたどり着く。
「うっきついっすね」
どんどん魔力が吸い出される。
「さっさと焼いちゃおう」
「うす!」
2人は出力を上げて棘草を焼き払う。
「はあ、ほとんど魔力残ってないっす」
「戻るよ」
針玉と棘草だけが相手ではない。そして、これだけ多くのラスカルジャークを目にしたフィリップ班に、撤退の二文字は存在しない。
「魔力なんかなくたって、けっこういけるでしょ?」
「そっすかねー?」
残りの魔力は温存して、2人は腰に下げていた剣を抜いて仲間の元へと駆け戻る。
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