50•未知の魔法
通信の向こうで村人たちが声を荒げている。
「フィル班長、一旦切るっす」
「え?あ、うん。後でまたね」
「す」
現地調査班との通信を切ると、首都調査予備班の面々は顔を見合わせた。
「なんだってんだ、一体」
トーマスがもじゃもじゃの顔を金色に煌めかせて毒づく。
「村人にとっちゃ廃村になるまで何もしてくれなかったクソ政府だろ」
ミルドレッドが半笑いで言う。
「仕込まれてるよなー」
エシーが悔しそうにぼやく。
「こんなことになるまで気づかなかった」
いつも朗らかにお喋りして回るミランダも悔しそうだ。
「魔法使いの撲滅と反政府ってこと?」
スーザンは眉根を寄せる。
「まあ、そんなとこだろうね」
ミランダが暗い顔で頷く。
首都調査予備班のストロングロッド騎士たちは、止まっていた手をのろのろと動かしはじめた。皆は冷め切った料理を黙々と片付ける。その間にもスーザンは養父への通話の魔法を試みる。諦めず、繰り返し試みている。
「おい、スーザン大丈夫かっ」
トーマスが金色毛玉の奥でなんとなく琥珀っぽい目玉を丸くする。スーザンの顔が白くなってきたのだ。
「あ、まずい」
スーザンは呟くと、慌てて魔法毒解毒剤を取り出す。
「ブルートパーズのは酩酊暴走だけみたいだったけど」
スーザンは大魔法卿リチャード・ナイトラン特製の小さな錠剤を飲み込む。
「この変な妨害魔法は知らないうちに魔力持ってかれる」
一回触れただけでは気づかないくらいの微量な魔力を吸い取られるようだ。
「フィル班長大丈夫かな」
「旦那の解毒剤持ってったんだろ?」
不安そうなスーザンを、ミランダが励ます。
「そうなんすけど」
魔法毒は、魔力に作用して異常行動を取らせる毒素である。現在までに判明している魔法毒のほとんどは、ブルートパーズと同じ酩酊暴走タイプだ。強い魔法をとにかく放ちたくなる毒である。
僅かな例外として、魔法が封じられてしまうものや自分に睡眠魔法をかけて眠ってしまうものなどがあった。だが、そのどれもが酩酊暴走とは比べられないほど些細な効果である。
「聞いたことないタイプの魔法毒だし」
「今度のことでは解らないことだらけだな」
スーザンの懸念にトーマスも同意する。
「意図はなんとなく解ってきたけど」
ミランダは、定食のプレートから冷たい肉を一切れ持ち上げながら口を開く。しばらく肉を眺めていた後、徐に温め始めた。皆はハッとして各々の皿を温める。
王宮騎士団のメンバーでも魔法を使えない人はいるが、ストロングロッド出身者は子供でも温めたり冷やしたりくらいはできる。それなのに、ここに集まった5人は冷めたままのものを食べていた。それほど廃村からの連絡はショックだったのだ。
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