5•縁談
「肩書きまで賜ってるくせに、とんでもねぇ野郎、あ、ええと、困った奴ですよね」
ルフナーメとは、ここレジェンダリー王国で何か特別な能力によって国家に貢献した人物に与えられる公的渾名のようなものである。スーザンの養父リチャード・ナイトラン大魔法卿の「大魔法卿」も肩書きである。
「エシー君、話しやすい言葉で構わないよ」
「そうだよ。フィル班長は気さくだからね!」
スーザンは花が開くような笑顔を見せる。フィリップ班長は照れ臭そうにちらりとスーザンをみた。スーザンもちらりとフィリップ班長を見る。スーザンの澄んだエメラルドグリーンの瞳には、フィリップ班長の榛色の瞳が刹那真っ直ぐに映る。
エシーはスーザンを見て、それからフィリップ班長を見る。すでに2人は何事もなかったかのようにエシーの方を向いている。
「んー?」
エシーが首を傾げて、もう一度スーザンを見る。それからまたフィリップ班長を見る。
「んんー」
エシーは少し上を見てから、ジョッキに残っていた泡立つ酒をグイと呑み干す。
「店員さーん!大ジョッキひとつ!」
「ふたつっ!」
「あとミント水、炭酸きつめで!」
程なく注文した飲み物が届く。エシーは黄金色の酒を3分の2程一気に飲み干して、音を立ててジョッキを置く。
「スーザン、お前さぁ、恋人いないとか嘘ついてんじゃねえよ」
「え?」
スーザンはきょとんとする。隣では大男が赤い眉毛を悲しそうに下げた。
「縁談ってそういうことかよ!」
エシーが2人に向けた言葉の効果は絶大だった。大男フィリップ班長はカッを通り越してガッ!と目を見開く。隣り合った2人は、バッと音がしそうな勢いで顔を見合わせる。そして、すぐにまた正面を向く。
「えぶふぇー!」
スーザンが謎の音声を発して、凄い勢いでパリパリ皮の鶏を詰め込む。
「いや、違う、誤解だ」
フィリップ班長も定食を3口くらいで食べ終わる。
「ミント水!」
「はいよ!炭酸きつめね!」
「大ジョッキで頼む!」
「はいよー!」
「泡酒大ジョッキひとつ!」
「ふたつ!」
3人はしばらく顔を見合わせたり目を逸らしたりしながら、ガブガブと大ジョッキを傾けていた。
「で、何が違うんです?」
それぞれ5杯目くらいでようやく落ち着くと、エシーが質問した。
「縁談は僕の好き勝手に申し出られるものじゃあないよ」
「そうだよ、エシー。ちゃんとナントカ会議で決まったんだから」
「御前会議ね」
「そう、それ」
ファミリービジネスと呼ばれる会議は、王室関連の重要事項を話し合う機密会議である。そこで何かが起こったとしても、一切外には出ない。スーザンも縁談を受けるという結果しか知らない。当然、フィリップ殿下の意見がどうで、それに対する出席者の判断は何だったのかもわからない。
つまり、真実は闇の中である。
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