49.状況を話し合う
調査班には誰も、ブルートパーズによる魔力毒に犯された人の行動を実際に見た者がいない。魔力毒その他の魔法トラブルの記録にも一切その酒の名は見られなかった。
「断言は出来ないけど、もしかしたらブルートパーズの毒が含まれた魔法の特徴なのかも知れないねえ」
「飲み残しない?」
「フェニックスライドさん、なにか分析や測定の方法を思いついたんですか?」
フィリップの声に期待と不安が入り混じる。
「廃屋で収拾した瓶の残骸ならあるけど」
「僅かでも実物があれば、色々試せるんじゃない?」
「持ち帰ってくれたらやってみますよ」
ミルドレッドとエシーが受け合った。
エシー達魔法技兵部隊は、魔法研究のエキスパートだ。土地調査に訪れている測量班とは、使える機材や手段の数が桁違いなのである。開発中で未公開の機材や理論を含めれば、それこそ星の数ほど方法はある。
ただし、安全とは限らないが。
「ワームホール以外に目立つものは?」
トーマスが質問する。
「魔法関連は目視できるものは特にないなあ。」
「変色や変形、臭いもないすか」
スーザンが期待を込めて聞く。
「小さな痕跡はたくさんあるんだよ。でも、気になるほど大きなものはなくてね。それに、痕跡から予想される残留魔力が測定も感知もできないんだ」
「てことは、大気中に魔力はあるはずなんすね?」
「そりゃあるよ。僕達だって今いるんだし」
「え?班員同士の魔力感知も出来ないんすか?測定だけじゃなくて?」
「あれ?言ってなかったっけ」
フィリップ班長が戸惑う。
「測定が出来ないとしか聞いてないねえ」
「ちっ、計器の弱点を突いたわけじゃないのか」
ミランダが否定し、ミルドレッドが舌打ちをする。
「五感を奪う攻撃を受けたらまずいだろ」
トーマスが不安な声を上げると、通信の向こう側でも同じ空気が流れた。
「同士討ちが怖いよね」
フィル班長が、皆の懸念を言葉にした。
「フィル班長、一旦退避したほうがいいんじゃあ?」
「とりあえずお昼食べたら次の村に向かうよ」
「吐き気とか頭痛とかないすか」
「ありがとう、スー。僕は大丈夫」
「油断しちゃダメっすよ」
「スーこそ、気をつけるんだよ?」
「こっちはむしろ何もなくてもどかしいっす」
「だからって危ないとこに飛び込まないでよ?」
気持ちが通じたばかりなのに危険な状況で引き離された2人が、過剰なほどに相手を気遣う。その様子は周囲の人に丸聞こえである。第一、この通信は昼休みの私信ではない。荒れた村のほうでは、村人の怒声が上がっている。
「まじめにやれ!」
「そんなだから、信用できないんだよ」
「えっ」
報告にはなかった村人の不審を直接耳にして、スーザン達は息を呑んだ。
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