46.ブルートパーズと村人たち
フィリップ班長の問いかけに、村人の1人が怒りを露に叫ぶ。
「何もかもやられたんだ!政府がなんにもしないから、移住するしかないんだ!」
1人が騒ぎ出すと残りの村人も不満を言い始める。
「繰り返し襲われてるのに、何の対策もしなかったじゃないか」
「俺たちは魔力なしだからどうしようもないよ!」
「最後の魔法使いが死んじまって、ラスカルジャーク相手にどうしろって言うんだ」
フィリップ班長たちは、何も村人を責めてはいない。ただ、畜産が生業の村に家畜の影が見えないので質問しただけ。しかし、恐怖と不安に数年間晒された村人たちには、なにか咎め立てをされたように感じられたのである。
「レイニーフィールドの旦那方は親身になってくれた」
「うまい酒だってくれた」
「原料生産をすれば5年で農地をくれるから、俺たちは生き延びることができるんだ!ホントは政府がやるべきなんじゃないのか!」
「酒をくれたんですか?」
「そうだよ!」
「そいつは太っ腹だねえ。なんて酒だい」
フィリップ班長がなるべく優しく聞く。モンティがすかさず銘柄を訊ねる。すっかり頭に血が上った村人たちは、口を揃えてこう答えた。
「ブルートパーズだよ!」
「みんなに?」
「みんなにだ!みんなに一本ずつ。高級酒だぞ」
「お前たち調査員なんざ、気軽に呑めねぇ酒だ」
「俺たちはこれから、その原料を作る農園に引っ越すんだ!」
「この村は廃村だよ」
「俺らも明日には出て行く」
「いくら調べたってもう何にもねぇ」
フィリップ班も測量班も、青色麦火酒に関する情報は得ている。魔法使いたちが高火力の魔法を無差別に放ちたくなる、魔法毒のある酒である。スーザンたちが呑んだ首都スターゲインブルク裏町の酒場では、穀物泡酒大ジョッキ2杯分の値段で人差し指一本分だ。
「レイニーフィールド一族がこの村に来たのかい?」
モンティが何でもなさそうによそ見しながら質問する。村人たちはいきりたつ。
「そうだよ!直々に来てくだすったんだ!」
「王家だの王宮騎士団だのが何にもしない間になあ!」
「ご嫡男やご当主や、奥方様や、高級酒を持ってらしたんだ!」
「ふうん。で、あの次元落し穴は魔法使いが酔っ払って暴れたのかい」
「何を!」
「違うのか?」
モンティが淡々と畳みかけると、村人たちは怒りを込めて無言の睨みを向けてきた。
測量班は、ワームホールのある家を調査に向かう。フィリップ班長の指示で魔法が得意なティムが大きな体をゆったりとゆすりながらついてゆく。ワームホールの大きさや魔力波を測定する際には、安全のために魔法が得意な騎士を1人同行させる規定があるのだ。そのため、フィリップ班が到着するまではワームホールの計測作業ができなかったのである。
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