43.村の検分
フィリップ班長はかろうじて残っていた数人の村人に声をかける。
「改めて伺いたいのですが」
村人たちは不安そうに飛竜投擲部隊を眺める。新たに村に到着した彼等は、測量班とは体格からして違う。魔法で強化する前から、若い女性であるリサでさえ骨太な体格を見せ、がっちりとした筋肉で覆われている。
それでなくとも、空から飛竜でやって来たのだ。ラスカルジャークに襲われた村の住民にとっては恐怖を蘇らせる集団であった。
「この村はラスカルジャークに襲われたのですね?」
村人たちは顔を見合わせて答えない。
装着義務はないが、ビルとリサは耳当て付きの飛行帽と風防眼鏡を頭に乗せている。これには遠見や遠耳の補助魔法がかかっていた。大男2人はサイズが難しいのか、身に付けていない。
フィリップ班長とリサは受け流しの補助器具である王宮騎士団マントを着ている。あとの2人は着ていない。
この統一性のなさと、着こなしのどことなくラフな感じが彼等の不審度をあげている。しかしこれでも、「山賊」と揶揄される擲竜騎士にしてはマシなほうなのであった。
「空き家の中を見せていただいてもいいですか」
フィリップが丁寧に尋ねても誰も口を開かない。そこでフィリップ班は仕方なく黙礼してから村を検分して回る。ぐるりと外を見回って、その後で村人に廃屋立ち入りの許可を願い出た。村人が尚も黙っているので、測量班長が進み出る。
「どうかみなさん、ご協力をお願いします」
測量班の口添えもあり、ようやく村人たちは頷いた。そこで班長は大きな体を窮屈そうに丸めながら、外れかけたドアを開けて民家のドアをくぐる。
「爪痕や噛み跡はラスカルジャークで間違いないだろうけど」
赤い眉毛が難しそうに寄せられる。
「班長、この癒着や溶解は」
「こっちの変色も」
「フィル班長!あの家次元落し穴が!」
皆が厳しい顔をする中で、一際目つきを鋭くしたのはビルだ。その抜群の視力で遠くの家の屋根に黒々と口を開ける、異界への入口を見つけたのだ。これは魔力暴走事故現場に出来る謎の穴で、次元落し穴と呼ばれる。
そこにうっかり触れてしまうと、物でも人でも消えてしまう。稀に、別のワームホールからひょっこり戻ってくる。大きいものも小さいものもある。ワームホールは、しばらくすると消えてしまう。
「ラスカルジャーク襲撃の痕跡、それに魔力暴走からさほど時間が経っていない証」
フィリップ班長がぶつぶつと数え上げる。
「魔法の失われた土地、移住した住人」
班長は太い腕を組み、うーんと唸って上を向く。
「そして魔法波は検出されない」
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