42•廃村へ
翌朝早く、フィリップ班長とその部下3名は竜上の人となっていた。
赤毛の大男である班長が、想い人に発注した笛を得意そうに吹き鳴らす。乗せてもらう為なので、そこら辺に休んでいる飛竜を調達するより竜寄せの笛を使う方がよい。仲良しの飛竜が来てくれるからだ。
3人の班員、即ち大柄なティム、スピード自慢のリサ、並外れて遠目が利くビルも、首元からそれぞれの呼び子を取り出した。しかしその笛に口を寄せる手が止まる。昨日目にしたものではあるが、音を放つとスーザンの笛は神業の域かと思われたのだ。
銀爪渓流瀑の名前の通り、月光にさざめく渓流瀑の駆け下る音がする。笛の纏う魔力の燐光は、飛竜への呼び声と共にたおやかな踊りを見せる。
「きたな」
フィリップ班長は赤毛を靡かせて跳び上がる。魔法で強化した脚力と、上空の環境に耐える保護系の魔法をいくつも使って飛竜に飛び乗った。
「遅い!」
優しいながらもキッパリと班員を叱責し、フィリップ班長は飛竜を滞空させて待つ。感嘆のあまり動きを止めていた班員たちは、慌てて各自の竜寄せの笛を吹く。すると、ゆったりと翼を広げた飛竜が三匹やってきた。
ビュンビュンと風を切り、高い山の頂上から一気に街道へと向かう。山の麓を緩やかに取り巻く街道は、首都スターゲインブルクから各地へと伸びる。
街道から外れた小村が明るいレンガ色の屋根を連ねるのは、首都付近の光景である。さほど大きな国ではないが、地方によって特色ある建築様式が見られる。それはこのレジェンダリー王国の成り立ちに関わることだった。
害悪魔法生物ラスカルジャークに立ち向かう戦いの歴史の中で、肩を寄せ合った小さな民族集団がいつしか一つの国となったのである。
また、レジェンダリー王国は人界防衛の最前線でもある。我こそはと思う猛者たちが逗留し、また定住し、世界中のあらゆる文化が交錯している国でもあるのだ。
今、次期国王である赤毛のフィリップが颯爽と降り立つのは、街道沿いの村である。この辺りは食肉用家畜の牧場となっていた。早朝だからか今は放牧された家畜の影は見えない。
広い牧場に飛竜を着地させ、フィリップ班が村へと入る。村の入口には測量機材を囲んで街道経由班が待っていた。
村の畑では村人自家用の食物が作られている。作物の茎や皮は、牧草以外の飼料としても、また肥料としても使われていた。
「うわあ」
「これ」
「酷いね」
「酷い」
畑を見るなりフィリップ班が口々に悲鳴をあげる。土は出鱈目に掘り返され、ささくれだった木片や不揃いな石が散らばっている。説明を聞かなければ、ここが畑だったとは到底思えない惨状であった。
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