41•温もり
ひとりナイトラン邸に残ったスーザンは、リチャードへの通信を何度か試した後、遅い夕食を取った。サラダやスープを黙々と食べる姿を、サマンサが心配そうに見つめている。
給仕のティモシーが切り株ステーキと呼ばれる肉料理を運んでくる。ソースはスーザンの大好きな球根薬味山葵霙だ。エシーが口をへの字に曲げるほど嫌がる辛みがある。臭いも鼻にツンとくる。好き嫌いが極端に分かれるソースなのだった。
「これ召し上がって元気出して下さい」
普段は無言で給仕するティモシーだが、落ち着かない様子のスーザンに思わず声をかける。首都のナイトラン邸で食事を運んではや5年。生気漲る養父子の食べっぷりが大好きだった。漏れ聞く2人の会話も楽しみだった。
2人は首都にいないことも多いので、1人の食事自体は珍しくない。独り黙って食べることもあれば、上流らしくもなく隅に控えた召使いたちに話しかけてくるときもある。
女中頭サマンサや首都邸執事チャールズといった渾名をつけてからかってきたりもする。
それが今夜は食べる勢いも弱く、沈んだ様子でおかわりもしなかった。
「ありがとう、ごちそうさま」
食卓を立つスーザンを召使いたちが心配そうに見送る。いつの間にか、普段は食事時に姿を現すことのない掃除係や洗濯係までが集まっていた。
「きっと害悪魔法生物と戦ってるんですよ」
首都スターゲインベルクの館を取り仕切るチャールズが慰めるように声をかける。彼の父サミュエルは、リチャードの任されている領地ストロングロッドで代官職に任じられている。
その妻サマンサも顔を曇らせる。
「そうですよ、忙しいに違いありませんよ」
「明日には美味しいお土産持って帰ってきますよ」
給仕のティモシーは、椅子を引きながら励ますように笑った。他のみんなも頷いたり、スーザンを元気付けることを口々に言ってくれた。
「ありがとう、みんな」
スーザンは元気にお礼を言って、自分の部屋へと戻って行った。その後もう一度リチャードへの通話の魔法を試したが、やはり失敗したので諦めて寝ることにした。
「スー、起きてる?」
横になってすぐ、思いがけない通信が入った。
「フィル班長?」
「街道経由班と連絡がついて、明日合流することになったよ」
「そっすか」
「元気ないね」
珍しく暗い声にフィリップが優しく語りかける。
「ほんとなら昨日はお見合いして、今日はデートしてたのにね」
当然のように約束もしていなかった予定を口にする剛腕卿殿下。
「で、でぇと?」
「うん」
慌てるスーザンにフィリップ班長は軽く笑い声を立てる。
「お見合いで相談するつもりだったんだ」
気持ちを軽くさせるためにわざと慌てさせた優しさに、スーザンの胸に暖かなものが広がっていった。
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