40•不安な夜には魔法の通話を
フィリップ班長からの通信に受け応えする傍、ミランダとモンティは改めて統計を調べている。
「多分なんだけどさ」
ミランダがデバイスを操作しながら発言した。エシーが使っている試作機の5倍くらいはある代物だ。一度極端に小型化した後、大型携帯デバイスが開発された。それが一世代前である。現行モデルでは最新型だ。
「人口減少も高級酒関連の廃業も、ゆっくりと進行したから気がつかなかったんじゃないかな」
「ほとんどは移住だから、国全体の人口はたいして減ってないしね」
今度もモンティが補足する。それを聞いたフィリップ班長は疑いの色を濃くする。
「それ、本当なの?」
一瞬、通信の両側がしんとなった。
「廃業はともかく、廃村はラスカルジャークに襲われたんだよね?」
「それが、統計上のラスカルジャークによる被害は土地家屋がほとんどなんだ」
フィリップの質問にミランダが答える。すると通信の向こうから、穏やかながらゾッとするような響きを込めた声が届く。
「おかしいよね」
歴史で習う襲来事例では、死者が膨大な数に上るのだ。たまたま討伐部隊が巡回に訪れていたのならば多少の抵抗は可能だ。しかし、いくつもの村で幸運な偶然が起こったとは考えにくい。
「だけど、街道経由班の報告だと、廃屋の状態はラスカルジャークの襲来跡としか考えられないって」
ミランダが戸惑いながら伝える。フィリップ班長は少し考えているらしき沈黙の後、静かに告げた。
「合流を早めることにするよ」
班長の後ろで班員がざわめいた。
「計測の専門家より僕たちのほうが、奴等の爪痕には詳しいからね」
「そいつぁそうだな」
トーマスが頷く。くどいようだが、擲竜騎士は対ラスカルジャークの精鋭なのだ。その場にいた誰もが同意して、通信は終了した。
「おやすみスー。気をつけてね」
最後の最後に、フィリップ班長は私信を行う。通信の双方から微妙な空気が発せられる。発端はスーザンに関わることではあるが。状況の定まらないまま2日が経っているのだ。少し緊張感が足りないと思われても仕方のない行動だった。
「フィル班長も、油断するんじゃないっすよ」
「うん、ありがとう」
でれでれした王子の声を聞くと、エシーが強制切断したそうな顔をする。アンバーも顔を顰めてチラリと婚約者のモンティを見る。モンティはそれに応えて、やれやれとばかりに首を振る。他のみんなも少々嫌そうな雰囲気だ。
「今日できることは終わりかな」
通話の魔法が完全に切れてから、ミランダが皆を見回す。ストロングロッド出身の王宮騎士達は無言で視線を交わして帰って行った。
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