39•状況の整理
フィリップ班は山頂で飛竜を調達し、ゴルドフォーク付近で調査班と合流する予定だった。機材を運搬している街道経由班を空から護衛するのだ。ゴルドフォークに近づくまではそれほど警戒する必要はないと思っていた。
「スー、お待たせ」
フィリップ班長がスターゲインブルクのナイトラン邸に魔法通信を入れる。
「あっ、フィル班長」
スーザンの嬉しそうな声を聞くと、フィリップの顔は自然と笑顔に変わる。
「残念ながらナイトラン大臣には繋がらない」
「こっちにもまだ連絡来ないっす」
スーザンは同時にいくつもの通信系魔法を受信できる。受信した通信を総て繋げて同時通話にすることも可能だ。いまフィリップと魔法で会話しながらもリチャードからの連絡を待っている。
「とても変な感じだったよ」
「やっぱり」
「なんだか泥沼に腕を取られていくような」
「わかるっす」
「あれなんだと思う、スー?」
「わかんないっす。拒否や妨害じゃないし」
「うん。ダメージないからね」
2人はしばし黙る。
「街道経由班とは連絡とったすか?」
「まだ。何かあったの?」
「街道沿いの村が2つもラスカルジャークにやられた」
前回に引き続きトーマスの声が割り込んできた。トーマスは自分も班を率いる擲竜騎士だ。フィリップとは班長として同僚である。それでなくとも飛竜投擲部隊は家族意識が強い。彼等特有の感覚で、王子に対してもかなりぞんざいな口を聞く。
赤毛の王子はストロングロッドチームが集まっていることは承知している。トーマスにはむしろ先輩として自分が敬語を使う間柄だ。しかし、スーザンとの通話への割込みが昨晩と同じパターンだったこともあり、フィリップ班長の笑顔がどす黒くなる。脇に控える3人の班員は顔を見合わせ肩をすくめた。
「街道班は無事だったの?」
「ラスカルジャークの襲来は随分前で、最後の村人たちがゴルドフォークに移住準備をしてたらしい」
モンティが説明する。ミランダも付け加えて、
「残留魔法波がほとんど観測されないんだよ」
と告げた。
「残留魔法波の除染装置が実用段階になってたの?」
「まだ熱暴走問題が解決してないですよ」
フィリップの疑問にはミルドレッドが答える。魔法技兵部隊では、魔法毒の除染装置を改良中なのだ。現在の装置は、なんらかの理由で汚染された物の除染ができる。しかし、毒が除去されたあとにも魔法が生み出す毒の波動が残ってしまうのだ。現在改良中の新型では、この波動まで除染できるようになるともっぱらの噂である。
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