37•首都調査予備班の長い夜
フィリップ班長からの連絡を待つ間、ストロングロッドチームは情報交換することにした。
「じっとしててもしょうがないし、報告始めない?」
ミランダの提案で順番に今日の成果を述べてゆく。アンバーとミルドレッドは移動手段と通信手段を確保しただけなので報告はすぐに終わる。ミランダ本人は、朝聞いた醸造所と原料農家の廃業数のほか人口減や魔法使いの減少を報告した。
「公式の数字にずいぶんと派手に現れてんのに、全く話題に上らないのが不気味だねえ」
一通り数字の読み上げを終わると、ミランダは顔を顰める。
「魔法使いの減少?」
アンバーがはっとスーザンを見る。
「世間の魔法使いが減れば、一般人から怖れられるようになるんじゃないか」
モンティが呟く。
魔法使いの多くは強大な力を持っている。何もない所から火を出したり、急に目の前に現れたりする。ただでさえ一般人には驚くべき存在なのだ。人数が減り目にする機会が減れば、優れた魔法使いであればあるほど奇異の目で見られるようになることだろう。
「それまでにじわじわとスーザンの悪評を広めておけばナイトラン大臣も信用を落とすかもな」
エシーが深刻な顔で付け加える。
「現在世界最高峰の魔法使い養父子になんか仕掛けてるのは確かみたいだなあ」
トーマスは金色のもじゃもじゃした顔の奥で琥珀の瞳を光らせる。
「人口減少地域からのゴルドフォーク地方への移住も目立つんだよね」
ミランダは自分で言いながら恐ろしそうに身震いする。
「謀叛か?」
トーマスが低い声を出す。
「なんだろう。この国の根本に叛意があるように思えてくる」
モンティがいつになく雄弁だ。彼は言質を取られないように、普段は寡黙だというのに。
「ミリィ姐御、今度は何仕込んだんだ?」
エシーが期待に満ちた目でミルドレッドを見る。
「へへっ、魔法通信網のチェックと新規ポートの遠隔設置だけじゃつまんないよねー」
「魔法技兵部隊の姐御は期待どうりだぜ」
「ちょっとフェニックスライドさん、エシーも、ナイトランのおじさんに釘刺されたでしょっ」
スーザンは睨む。
「お前にだけは説教されたくねぇな」
「だよねー」
魔法技術のこととなると途端に常識を失うエシーと、魔法技術のことしか頭にない変人ミルドレッドは心外だとばかりにスーザンを眺める。
「それで結局、なにしたんだよ」
トーマスは好奇心満々で尋ねた。
「音波に含まれる魔法波を受信して、抽出、測定、記録が出来る様にしたんだよ」
「なんでまた」
得意そうなミルドレッドに、スーザンは間髪を入れずに質問する。
「は?魔法毒の問題だろ?そりゃ測定するだろ?魔法値はさぁ」
ミルドレッドは自分理論が他人に予想できないのを理解しない。
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