36•交信不可能
首都スターゲインべルクのナイトラン邸では、スーザンが通話の魔法を展開する。スーザンは既に複数人数で同時に会話できる魔法が使えるので、皆が聞く体制に入った。
「あれ?」
何度やっても繋がらない。
「変だな。拒否も抵抗もされてないみたいなのに」
通信に対して拒否したり抵抗したりすると、相手には多少のダメージがあるのだ。今は単に繋がらないだけでダメージは被らないので、スーザンは不思議がる。魔法を失敗した場合とも違う。なにか抵抗感のないゼリーのようなものに手を差し入れているような、頼りなくどこか気味の悪い感覚だ。
「本部に何か連絡来てるかも」
エシーが魔法通信用の小型デバイスを取り出す。小さな板状のデバイスは、現在開発中の最新型だ。指先でパパッと操作する。
「フィリップ殿下からは野営の連絡が来てるけど、ナイトラン大臣からは来てないみたいだなあ」
「フィル班長に聞いてみよう」
スーザンはフィリップ班長に通話の魔法を送ってみる。フィリップも使える魔法なのだが、リチャードよりは不安定だ。移動中の受信が苦手なのである。
この魔法は少し特殊だ。送信側が多少拙くても受信側が優れていれば明瞭な会話ができる。しかし、受信側が安定しないと、音声が掠れたり途切れたりしてしまう。
今は野営準備中なので比較的安定した通信が出来るだろう。
「フィル班長聞こえますかー」
スーザンが呑気な呼びかけをする。
「スー!」
魔法通話の向こう側から弾んだ声が返って来た。
「おっ、繋がったな」
うねる金色の毛玉から野太い声が聞こえた。
「トーマス先輩?なんでそこにいるんですか」
赤毛の王子は途端に気色ばむ。
「首都調査予備班のミーティングしてるんす」
スーザンは淡々と告げた。
「でも、ナイトランのおじさんに連絡が取れないんすよ。なんか聞いてません?」
「いや。僕たちもこれから連絡取ろうと思ってたとこだし」
フィリップ班長は少し安心した様子で答える。
「行動中なんじゃないのかな」
「そっすかね」
「僕も連絡してみるよ」
「よろしくっす」
「頼んますー」
スーザンが頼めばアンバーも声をかける。続いてトムも口を開く。
「なんか判ったらこっちにも知らせてくれますかい」
「そうします」
他のメンバーの声が聞こえたことで、フィリップはトムへの態度を和らげた。
「で、そっちはどう?何か判った?」
「おじさんが帰ってからのつもりで何も話してないっす」
「スーは大丈夫だった?デイヴィスに会ったりとかしてない?」
「特に新しい動きはないっす」
明らかにホッとした溜息が聞こえ、スーザンが少し嬉しそうな声を出す。
「心配してくれてありがとうっす」
「うん、無事で良かったよ」
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