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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
ストロングロッドの雑草騎士ども
35/70

35•山中のフィリップ班

 出発の朝、リチャードとフィリップが会議室に入った時、フィリップ班のメンバーが3人とも既に来ていた。


「おはよっすフィルはんちょ」


 リサが細長い手をしなやかに挙げて声をかける。


「っす、フィルはんちょ」


 ビルが短く挨拶する。


「おはようございます、フィル班長」


 ティムが大きな体を折り曲げて丁寧に頭を下げる。


「みんなおはよう。早くからありがとう」


 常に変わらぬ皆の姿に、フィリップ班長はにっこり笑って手を振った。



 出発前の全体会議が行われた王宮を出て、フィリップ班は山岳地方へと向かう。騎士学校入学式で毎年利用する訓練コースとはまた別の山である。


「やっぱスーは無理っすか」


 リサは残念そうだ。


「連れてけないよ」


 怒ったような、泣きそうな顔をするフィリップ班長に班員たちは驚く。


「危険すぎる」


 なんとなくそれ以上話題にできない雰囲気になり、皆は黙って出発した。


 渓流を遡り、山奥で飛竜にのりゴルドフォークへと向かう。この山にもラスカルジャークは湧く。道すがら飛竜を投げて狩ってゆく。夜半に降りた山頂で、フィリップ班長は首から下げた小袋を取り出す。


「へえ、凄い袋すね」


 魔法の得意なリサが、茶色いなめし革の小袋にかけられた魔法に驚く。


劣化防止(キープ)位置情報発信(ラブコール)の魔法つきでじゃないすか」

位置情報発信の魔法(ラブコール)⁉︎」


 魔法が苦手なビルが目を見張る。たいへん高度な通信系の魔法で、使える人はレジェンダリー王国で10人に満たない。


「スーが作ってくれたんだよ」


 顔を輝かせて自慢するフィリップ班長を見て、班員達は2人がようやく気持ちを通わせたのだと確信した。しかし、その袋が実際にはスーザンが自分用に作っていたものの流用だとは、その場にいた誰も知らないのだった。勿論、フィリップその人も。


「スーザンすげえな」


 ティムが穏やかに賞賛する。


位置情報発信の魔法(ラブコール)って。どんだけ愛されてんすか」


 リサが揶揄うと、赤毛の大男は不機嫌そうに眉を寄せる。


「そうじゃない。遺体回収の為だ」

「それが愛されてるって言うんすよ」


 ビルが呆れ、ティムはため息を吐く。


 持ち物に位置情報発信の魔法(ラブコール)をかけておくのは、遺体回収の目的が普通だ。高度な魔法なので、小さなものにかけて貰うだけでも相当に値が張る。そのため、恋人や家族に位置情報発信の魔法(ラブコール)つきの小物を贈るのは、やはり相当愛されているのだ。

 もっともこの茶色いなめし革の小袋については、スーザンが自分の遺体を家族の元に届ける目的があったのだが。


「そうなのかな」


 フィリップ班長の口元が緩む。小袋の口を緩めて愛しそうに中を覗いた。銀爪(ムーンライト)渓流瀑(フルームフォール)の青白い光が仄かに漏れる。愛しさに溶けたその顔を3人の部下達は感慨深げに眺めていた。


お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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