34•初日の成果
「それで、他は?」
「酒屋が面白いこと言ってました」
「ふむ」
「ここ数年、あちこちで高級酒の醸造所が潰れてるって」
「高級酒の原料生産農家も減ってる」
エシーの報告を聞いてモンティが追加情報を出す。
「ミランダさん、統計を確認しておいてくれ」
「はいよ、旦那」
「アンバーちゃん、いつでもどこにでも現地調査に行かれるように準備しとけ」
「了解!」
「魔技のふたりは全国域の魔法通信システムを万全にしといてくれ」
「はい」
「まかしといてよ」
「ミルは余計な機能はつけんなよ」
「余計ってなにさぁ」
魔法技兵部隊の爆弾乙女ことミルドレッド・フェニックスライドが形の良い唇をへの字に曲げた。
一通りの指示を出すと、リチャードは最後にスーザンを見る。
「スーザンは薬の材料を1日で集めてこい」
「夜明けにしか採れないやつのとこ、ゲート開いといてくれる?」
「なんだ、まだ自分で開けないのか?じゃあ製薬教えるのはまだダメだな」
「けちー。やってみるよ、仕方ないな」
「仕方ないのはお前だろう」
いつもの仲良し親子だった。
スーザンは、騎士学校に入学した12才の時には移動の魔法を使えなかった。だが今では一定期間継続して使用可能なゲートを開設することさえ出来るようになっていた。しかし、安定性はまだまだである。途中で閉じてしまったら、また開き直しだ。面倒なので養父リチャードに頼もうとしたのである。
「じゃあみんな、今夜また会おう」
リチャードは軽い調子で告げると、ゴルドフォーク地方へと旅立った。
夜になると、ストロングロッドの雑草騎士どもが三々五々集まって来た。広くもないナイトラン邸の食堂に、ミランダ、エシー、トム、モンティ、アンバー、最後にミルドレッドが入る。
「今晩はー」
「よう、スーザン」
「飲み直してぇ」
「あの毒酒は酷かったよねえ」
「今夜にでも、レジェンダリー王国内ならどこでも連れてけるよ」
「通信いっぱい仕込んだよー!なんだ、旦那まだかぁ」
マーサがみんなにお茶を用意する。軽い夜食も出してくれた。
一口大の丸い土台に胡椒の効いたベーコンが乗っている。その隣には四角い土台にレーズンとカスタード。角切りトマトにはパセリと果実オイルがトッピングされている。
土台となるのは幾層にもなるバターたっぷりのかさかさした生地。齧るとパラパラと剥がれて来る。焼きたての香りが疲れた心身を癒してゆく。
男性陣は皆一口に放り込み、カリカリと音を立てて楽しんだ。女性は二口か三口かけて食べる。
「旦那遅ぇな」
紅茶を何杯かお代わりし、軽食もすっかり平らげてもリチャードが帰ってこない。
「ちょっと聞いてみる?」
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