33•首都調査予備班
朝食を終えて席を立つと、3人は入り口に向かう。結局有耶無耶に丸め込まれたフィリップ班長は、玄関で立ち止まって振り返った。
「スー」
心配そうな榛色がスーザンの碧玉をひたと見据える。
「無茶はしないでよ」
「しないっす」
スーザンも真っ直ぐに視線を返す。
永遠の刹那が過ぎて、フィリップは首にかけた自分の竜寄せの笛を外した。首元には紐がもう一本見えている。スーザンの渡した茶色いなめし革の小袋が下がっているのだ。
「行ってくるよ」
フィリップは自分の笛が入った黒い革の袋をスーザンにかける。それから、ポケットから位置情報発信の魔法の受信装置を取り出す。
「これはスーが持ってて」
朝食前に銀爪渓流瀑と共に渡してあったのだが、今またスーザンの手元に戻された。
ゴルドフォーク地方への出発前会議で、正式にストロングロッド出身者7名が首都調査予備班として編成された。昨日の会議で首都調査班に選ばれていたエシーは予備班に移動となる。
急なこと故、既に調査班として組み込まれていたエシー以外、予備班メンバーは出発前会議には呼ばず、任命書がリチャードに託された。リチャードは一瞬で現地に移動できるので、首都調査予備班の初日指導のため後に残る。フィリップ王子率いる現地調査班は先に出発した。
首都調査予備班のメンバーはリチャードに呼ばれて首都のナイトラン邸に集まった。エシーは会議からずっと緊張しっぱなしだ。筆頭世継ぎのフィリップを初めとする偉い人に囲まれて生きた心地がしなかった。
領主でもあり、ここレジェンダリー王国の首席大臣であるリチャード・ナイトラン大魔法卿に報告を促され、ギクシャクと前に出る。
「エシー君、昨日の調査結果を話してくれたまえ」
「はい。まずギルバート・オーウェン・ハウスに行きました」
「うん」
正式な任命は本日付けだが、昨晩エシーはブルートパーズを提供している裏町の酒場を再訪していた。店主は案の定エシー達を覚えていて、今日はひとりか、と訊かれたという。
「彼女は仕事かい?」
店主はいろいろ話しかけるが、エシーは黙って泡酒を呑んで店を出る。
「ブルートパーズを呑んでる客は居なかったです」
昨晩にはエシーにも勧められなかったそうだ。あまり長居して怪しまれてもよくないので、早々に引き上げた。
「今のところ収穫なしですね」
「今日は一昨日みたいに開店直後を狙ったら?」
「そうしてみよう」
ミランダが提案し、リチャードが採用する。年長の騎士達は、リチャードと仲が良い。彼等はたびたび前線に行ってしまう領主を捕獲しに行く。そのまま一緒に討伐に参加することもしばしばだ。
「モンティ、ギルバート・オーウェン・ハウスに行ったことは?」
「時々」
「トム君は?」
「行くぜ」
「今日は2人で呑んでこい」
リチャードは2人に魔法毒解毒剤を手渡す。
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