32•ストロングロッドの雑草騎士ども
ストロングロッド出身の王宮騎士は、皆何かしら中央官僚や王宮関係者を頼って英才教育を受けていた。領主の跡取りとして迎えられたスーザンは言わずもがなである。その中でエシーだけは、田舎で鍛えた実力一本で一発合格した鬼才だった。
「エシー君はちょっと特別だけどな」
リチャードがおかわりのコーヒーにミルクを注ぎながら言った。1杯目はブラック、2杯目は何かを足すのがリチャード流だ。スーザンは1杯のブラックコーヒーをゆっくり楽しみながら疑問を口にする。
「そういえば、なんでスターゲインベルクに出てこようと思ったのかな」
地元志向のストロングロッド民にあって、縁故もないエシーが首都で就職したのは不思議だった。それも12歳と言う子供のうちから独りで寮暮らしである。厳しい騎士学校にも3年間通った。
「魔法技術の専門職志望だったからだろ」
「エシー君は入試で魔法機巧の点数が飛び抜けてたんだったね」
「公表はしませんがな。実技課題がすでに一流だったんで、ほんとは学校を飛ばして魔技が正規入団させたがってましたよ」
「ええっ?」
スーザンが思わず大声をあげる。リチャードはミルクを入れたコーヒーをかき混ぜながら続ける。
「うちの連中はだいたいスカウトくるがな」
「入団年齢に特例は認めないって言ってるのに」
「私にも来たし、今いるやつらもみんな飛び級申請の誘いがきましたぞ」
「いや、受理されないですから」
フィリップが王子の立場で一々否定する。リチャードは涼しい顔でミルクコーヒーを口に運ぶ。
「トムには来なかったか」
うねる金の毛玉、山賊っぽいトーマス・ボーダーコートの事である。彼は擲竜騎士だ。
「飛竜投擲部隊はまあ、騎士学校が既に実践ですから」
「それもあるな。しかしミランダなんかお喋り好きってだけで情報からスカウト来てたな」
「グラスフルーツ夫人には、なぜかなんでも話してしまうって評判ですよ」
「それで命を狙われないんだから不思議っす」
「なんだろうねえ。なんかこわいねえ」
「知らない方がいいこともあるって事さ。あと、それから……」
リチャードの数え上げるストロングロッド地方出身者の面子を目に浮かべながら、フィリップ班長は次第に嫌そうな顔になってゆく。
「集めちゃって大丈夫かなあ」
「心配ご無用ですぞ」
フィリップのぼやきにリチャードはニタリと笑う。
「星っ子」と呼ばれる生粋のスターゲインべルク出身者に対して、多くの人は「地方出身者」「田舎出」などとまとめて呼ばれる。だが、ストロングロッド出身の騎士たちには特別な呼び名があった。
曰く、「ストロングロッドの雑草騎士ども」。あまり組織向きとは言えないのに、何故か王宮騎士団で働いている面々だ。
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