31•リチャードの提案
フィリップ班長は一国の王子でありながら、山岳地方の奥地へと赴き害悪生物ラスカルジャークと戦っている。共に戦う仲間であるスーザンを信頼しているのは確かだ。しかし、自分の恋心が大きくなってしまった為に、危険な任務を任せるのが嫌だったのだ。
「殿下、ストロングロッド出身者でチームを組んだらどうでしょうかな」
「それは頼もしいチームになりそうだけど」
フィリップ班長は慎重に言葉を選ぶ。それを受けてリチャードは、ストロングロッド出身者を指折り数える。
「擲竜のトーマス・ボーダーコート、情報のミランダ・グラスフルーツ、魔技からはエゼルレッド・ペガサスウォークとミルドレッド・フェニックスライド、情報はモントゴメリー・レインボースキップもいたか、補給部隊のアンバー・ハリケーンライド、それとスーザンの7人だな」
「あれ?そんなに少なかった?」
フィリップは意外そうにリチャードを見る。ストロングロッド出身の面々は、みな個性的でよく話題に上る。常に誰かしらの噂が耳に入るので、大勢いると思っていたのだ。
「うちのみんな、あんまり地元離れないっすよ」
「いやでも、うーん、そんなか」
「なんすか」
スーザンは不服そうに食後のコーヒーを飲む。フィリップは曖昧に笑って、やはりコーヒーカップを手にするのだった。
ストロングロッド地方出身の王宮騎士は、現在7名。彼等の実力は折り紙つきだ。しかし王宮騎士にしては少々垢抜けない。
ミランダなど、首都スターゲインべルク出身者と家庭を持っているのに、ちっとも都会風にはならない。ザックリ切った赤茶の髪はたいしてケアもせず、茶色い瞳で素朴に笑う。小柄で丸く、騎士には見えない。歳は30、2人の子持ちである。
トーマスは25才、騎士学校は一浪で入学した。典型的な擲竜騎士で、ゴージャスな金髪をうねらせた頭には櫛も入れず、鼻筋の通った男らしい顔立ちには髭を生やし放題だ。金色の毛玉の奥になんとなく琥珀っぽい光が鋭く宿っている生き物である。ちょっと見山賊だ。
ミルドレッドは21才である。焦茶の巻毛に緑と金茶の猫みたいなオッドアイ。魔法技兵部隊の爆弾乙女と呼ばれている。これは悪名であり肩書きではない。若い乙女でありながら実証主義の変人で、発明品を町に持ち出しては問題を起こしている。
モントゴメリー・レインボースキップは40歳、通称はモンティ。黒髪黒目で痩せ型の男だ。埃ひとつも見逃さないが、飄々として目立つことなく、肩書きは受けないように立ち回る。当然、上司の言うことなど聞かない。
補給部隊のアンバー・ハリケーンライドは、28歳。名前の通りに琥珀の瞳と癖のないブリュネットは、ストロングロッド地方によくいるタイプ。モンティと歳の差カップルである。もうすぐ結婚する。彼女は馭者台の魔女と渾名され、どんなものでも乗りこなす。モンティがアンバーに命を助けられたのが2人の恋の始まりだった。
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