3•スーザンの生い立ち
1話千字程度、ヒーロー登場は4話目です。
ナイトラン卿と執事のサミュエルは、スーザンと出会ったその日のうちにレザーカット家に押しかけた。
「たとえ花嫁を迎えて子供が生まれたとしても、家督はスーザンに譲る」
「スーザンさまの適性なら問題はございませんね。誠におめでとうございます」
「実家を訪ねるのは勿論自由だが、まだひとりでは難しいな。遠いから」
「訓練もございますしね」
畳みかけるように各種の条件を提示され、勢いに押されたレザーカット夫婦は、スーザンを養子に出すことに同意した。
「いい子にするのよ」
「あまり暴れるなよ」
夫婦の不安そうな声に、兄弟達のヤジが被さる。
「追い出されんじゃないの」
「物壊すなよ」
「跡取りなんてできんの?」
「魔法使えんのかよ」
「食べ過ぎんなよ」
などなど。
スーザンの異常な身体能力は天然物であった。その上彼女には無尽蔵の魔力も眠っていた。恵まれた筋力や瞬発力、柔軟性に動体視力、判断力。生存本能からくる危機察知能力。頑丈な骨。強靭な胃袋。それだけで十分に生きていけたので、ナイトラン家にやってきた10歳時点では、魔法を使う気配はなかった。
しかしリチャードは他人の魔力を感知する能力も高かったので、スーザンをそのまま単なる野生児にしておくのは惜しいと思ったのだ。魔法によって強化してやれば、身体能力はさらに上がる可能性が高い。人類が見たこともない高みにまで駆け上がるかもしれない。そうリチャードは思ったのである。
彼は主に殲滅が得意な男であったが、ひょんなことから出世して、現在はここレジェンダリー王国の首席大臣にまで上り詰めている。領地の屋敷はサミュエルが代官となって管理し、リチャードはスーザンと共に王宮のある首都に住む。
スーザンは、騎士学校に入学する12の歳で首都スターゲインベルクに来た。しかし、彼女の選んだコースは卒業する15歳までの3年間を山奥で過ごす。
騎士学校卒業後は養父リチャードと共に暮らしてはいるが、あまり首都にはいない。正式に入団したらしたで、勤務はやっばり山奥中心なのだ。
一方、スーザンが今話している相手は幼馴染で同僚のエシーことエゼルレッド・ペガサスウォーク。彼の父親も田舎騎士だが、エシーは実力一本で王宮騎士団に入団した鬼才である。
スーザンと同じ年に騎士学校に入学したが、コースが違うので今偶然に出会うまで全く会ってはいなかった。山奥で過ごすスーザンたちに限らず、それぞれのコースはみな独自の訓練を行う。そのため街場にいても、ほかのコースの訓練生たちと会うことは稀だった。
「そもそもどこであたしを知ったんだろ」
「そういやあ出会いは聞いてないな」
「ねえ、そいつに聞いた話、全部教えてよ」
「おう。そしたらなんか分かるかもな」
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