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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
ストロングロッドの雑草騎士ども
29/70

29•交渉

「こんな素敵な笛を僕のために」


 愛しさが溢れる視線に、スーザンは恥ずかしくなって俯く。リチャードはそんな2人の様子を満足そうに見守っていた。


「あの、フィル班長」


 しばらくもじもじしていたが、スーザンは決意を込めてくすんだ灰色頭を上げる。


「スターゲインブルクでの聞き込みがしたいっす」

「駄目だよ。会議で決まってる」


 フィリップ班長は榛色の目を厳しく細める。スーザンは必死に頼み込む。


「そこをなんとか」

「向こうの動向は相変わらず掴めないんだ」

「エシーはなんて言ってました?」

「聞いてないの?」


 朝焼け色の太い眉毛が驚きに跳ね上がる。スーザンは、フィリップ班長がなぜ驚くのか知らない。彼は2人が情報共有していると思っていたのだ。一昨日の居酒屋での雰囲気や普段エシーを話題に上らせる様子から、とっくに話を聞いているだろうと予想していた。


「聞いてないっすね」

「一昨日の晩も今までどおり惚気られたらしい」

「エシー無事なんすね」


 スーザンはほっとする。フィリップ班長は軽く頷いて話を続ける。


「本当にこちらが動き出したのを知らないのか、気づかないふりをしているのか、判らない」

「そもそもなんでその嘘だけしつこく毎晩エシーに聞かせるんすかね。他のことは印象を薄くしてるのに」



 エシーだけではなく、王宮騎士団のうちかなりの人数がその「惚気」を聞かされている。そして昨日1日でそれが妄言であることも知れ渡った。印象を薄くしておきたいのならば、嘘の惚気を言いふらすのは悪手だ。いずれ本人に伝わって否定されるのは分かりきっていただろうに。


「縁談もなければ直接のアプローチもないんでしょう?」

「そっす。全然知らないやつ」


 一昨日から繰り返している説明をまた口にしてスーザンは顔を曇らせる。


「僕との縁談は今年に入ってから決まったことだし、僕かスーを追い落とそうとして醜聞を広めたいわけじゃなさそうだよね」

「私は敵が多いぞ」


 どこか自慢そうにリチャードが言うので、フィリップ班長は呆れてしまう。


「跡取りの評判を落とすつもりだったのかもしれないな」


 したり顔で頷くリチャードに、フィリップ班長は苦笑いで答える。


「まあ、無いとは言えませんけど」

「恋人だ、って部分じゃなくて、あたしがやらかした内容を広めたかったんすかね」

「否定はできないよね」

「お行儀の良い跡取りなぞナイトランとは言えないよ」

「はは」


 何やら自慢げな養父子(おやこ)を前にして、筆頭世継ぎの王子様が力なく笑い声を漏らす。


「自宅待機はやっぱり落ち着かないっす」


 話の流れで今だとばかりに、スーザンは交渉を始めるのだった。


お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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