27•朝
元は自分用に作成した茶色く飾り気のないなめし革の袋に銀爪渓流瀑と名付けた竜寄せの笛を入れる。
(受信装置は隊長に渡すかな?リチャードおじさん経由で王様に渡す方がいいかなあ?どうしよ)
少し考えて、それも一緒にフィリップ班長に渡すことにした。自分で使う場合には養父リチャード・ナイトラン大魔法卿に預けておくつもりだった。
害悪魔法生物ラスカルジャークは、まだまだ未知の部分が多い生き物だ。最前線で討伐にあたる擲竜騎士のスーザンは、いつ死んでもおかしくない。せめて遺体は回収してもらうのが最低限の親孝行だと思い、養父の為にも実家の為にも発信機能を付けたのである。
依頼という名のお守りおねだり品を渡せる状態にすると、動きやすい格好に着替える。スーザンの部屋は2階にある。窓からバルコニーに出た。下を覗けば、ちょうど昨夕見つけた飛竜の眼が生えている場所だ。
朝風にそよぐ船形の黄色い葉を眺めていると、3年間の山岳訓練期間がいきいきと蘇ってくる。入学式のその日から、フィリップ班長には様々なことを教わった。飛竜の目と呼ばれる薬草で解毒する方法も、食べられる動植物の手に入れ方も。
危険地帯で一人夜を明かす方法も、仲間と連携してラスカルジャークを追い詰める方法も。竜寄せの笛の作り方を教えてくれたのもフィリップ班長だった。
飛竜投擲部隊の面々は飛竜をラスカルジャークの群れに投げ込む。しかし、ワイバーンとは仲良しなのだ。お世話になっているので、飛竜を狩ったりはしない。爪は、寿命や事故で死んだ竜達から貰うのだ。感謝して、細心の注意を払い、持てる力の全てを注ぎ込む。それがフィリップ班長に習った極意である。
騎士学校を卒業して正式に王宮騎士団員となってからも、飛竜投擲部隊の班分けは変わらなかった。生死をともに野山で生きる勤務形態も手伝って、どの班もまるで山岳民族の家族のようだった。
彼等は他の部隊と違い王宮騎士とは名ばかりで、1年の大半を害悪魔法生物と対峙して過ごす。雰囲気もかなり荒っぽい。
それがフィリップ班だけは、どこか牧歌的であった。大柄なフィリップ班長が醸し出すのほほんとした雰囲気、同じように大柄なティムの不器用な素朴さ。リサは素早いから常にゆとりがある。目のいいビルも余裕を持った対応で落ち着いた様子であった。
ほぼ掛け声だけで意思疎通をするその姿は、牧歌的というよりはむしろ原始的と言えるのかも知れないが。
スーザンは、思い出に浸るばかりではいけない、と気を引き締める。長槍卿デイヴィス・レイニーフィールド=ゴルドフォークが何故スーザンを恋人だと言いふらしているのかは全くわからない。
聞かされ続けた同室のエシーがスーザンの幼馴染なのは、偶然なのかわざとなのか。それも解らない。デイヴィスの故郷ゴルドフォークの不穏な現状も気になる。そこに関連性はあるのか。たまたま重なっただけなのか。
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