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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
ムーンライトフルームフォール
26/70

26•ムーンライトフルームフォール

 スーザンは自分の部屋に戻ると、直ちに作業机に向かう。先程まで全く思い付かなかった笛の意匠がはっきりと目に浮かぶ。竜の爪を削る道具を取り出す暇ももどかしく、魔法を使って必要な工具を並べた。そのまま図面も引かずに作業に取り掛かる。


 指先をしなやかな魔法でコーティングし、絶妙の力加減で爪先を切り落とす。ここが呼び子(ホイッスル)になるのだ。残りの部分は脇によけ、あとで元の箱に戻す予定だ。今は手元の細工に集中する。

 バルコニーに続く掃き出し窓から、月の光が降り注ぐ。爪から立ち昇る微かな輝きとさざめきあって、さながら岩床を駆け下る滝のようであった。



銀爪(ムーンライト)渓流瀑(フルームフォール)


 装飾を一切廃したシンプルな竜寄せの笛(ワイバンコール)を月光に掲げて、スーザンが呟く。月は傾き、東の空は紫から茜へとうつろう。


 スーザンは今名付けたムーンライトフルームフォールを静かに持ち上げ、息を吹き込む。

 朝焼けの光の中に優しく伸びやかな音がたゆたう。本当に飛竜がやってきてしまうといけないので完全防音の魔法(アンチソーシャル)で音が漏れないようにしている。


 笛の放つ青い光が揺れる。一筋の銀糸のような光が笛を取り巻き、螺旋を描いて爪笛(ふえ)に落ちる。唐草模様のような魔法文字と呼ばれるものが笛の表面に刻まれる。文字は銀爪(ムーンライト)渓流瀑(フルームフォール)と書いてあるのだ。


 スーザンは満足気に頷くと、素材を片付けに立ち上がる。完全に夜が明けるまでにはまだ少し間がある。片付けを済ませたら仮眠を取るつもりだ。



 仮眠から目覚めて作業机の竜寄せの笛(ワイバンコール)を見る。自然に湧き起こった製作衝動と刻銘(ネーミング)を思い返す。この笛で呼ばれる飛竜はどんなだろうか。静かで気高く、情に熱い竜なのだろうか。それとも冷たく理知的な竜であろうか。


 スーザンは突然、この笛がフィリップ班長の依頼による品だと思い出した。奇妙な感覚ではあるが、これを作った素材と出会った瞬間、何もかも忘れてしまったのだ。素材とスーザンと、ただそれだけ。魅入られたように向き合った。


(依頼だけど、やっぱりラッピングするかなあ?)


 スーザンは朝の鍛錬をするために起き上がりながら考える。


(そのまんま渡すのも変だしね)


 完成した竜寄せの笛(ワイバンコール)「ムーンライトフルームフォール」は、女性の親指程度の大きさである。包むなら箱でも袋でもごく小さなものがあれば良い。渡すのは今日の朝食時だ。凝った包装はできない。スーザンは作業台を始めとして部屋をぐるりと見渡した。


(休日に会ったことないからなあ。好みわかんないし無難な黒とか白の紙でいいか)


 そこまで考えて、最近作ったばかりのなめし革の小袋が目に入る。自分の呼び子(ワイバンコール)を首から下げる袋が痛んできたので作ったのだ。覚えたばかりの劣化防止(キープ)位置情報発信(ラブコール)の魔法もかけてある。シンプルな見た目ながらもなかなかの出来だ。


(まだ使ってないし、これラッピングに使おうかな)


お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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