24•交渉材料を考える
リチャードとスーザンのナイトラン養父子はデザートの杏仁乳菓を濃い紅茶で楽しみながら、フィリップ班長対策を練る。最初のチャンスは明日の朝だ。朝食をお呼ばれにやってくる。
「朝食にスーザンがなんか作ったらどうだ」
リチャードの提案は王道作戦、胃袋を掴め!である。だがスーザンは却下だ。
「野営でしょっちゅう一緒に作ってるから、別に珍しくもないよ」
リチャードは紅茶の香りを楽しみながら黙考する。
「笑顔で行ってらっしゃいと言うのは?」
さもいいことを思いついたかのように、リチャードが提案する。
「山岳勤務で偵察に出る時にはお互い言うね。わりと笑顔だと思う」
これも効果は薄そうだ。
「着飾って出迎えたら?」
少し不安そうにリチャードが言えば、
「これから危険な任務に出るのに?」
スーザンは鼻に皺を寄せる。
「じゃあどうする」
リチャードは匙を投げる。文字通り投げる。カチャンと音を立ててデザートの平皿に匙が落ちた。繊細な飾り彫りが持ち手についた銀のデザートスプーンだ。給仕のティモシーが苦い顔をする。
「とにかく竜寄せの笛を作んないと」
「食べ終わったら材料を見に行くぞ」
「どこに?」
「食べ終わったらついてこい」
リチャードは何食わぬ顔で先程投げたスプーンを拾う。皿の上から拾い上げ、残っていた白く柔らかな菓子を掬う。スーザンも後はもう黙って食べる。食後に紅茶のお代わりまでして、2人は席を立った。
食堂を出ると、2人は着替えるでもなくそのまま廊下の奥へと進む。フィンガーボウルがあるので手も洗った。他にしておくことはない。突き当たりの細長い扉を開けると、横に細長い倉庫が現れた。中はやや埃臭い。
「ここ、物置だったんだ」
常に鍵がかかっていたので、何か大切なものでも入っているのかと思っていたが、木箱や麻袋が乱雑に積み上げられているだけだ。
「安定の魔法がかけてあるけど、気をつけろよ。」
先に入ったリチャードが、横長の物置をカニ歩きで移動する。スーザンが箱の中身を良く見られる場所まで入れるように、避けてくれたのだ。
「無計画に中身を取り出すとバランスが崩れて鋭い爪やら重たい金属やらが沢山降ってくるから」
呪いとかそういうのではなかった。物理的に不安定なのである。
「わかった」
スーザンは素直に頷く。
「で、どれが竜の爪が入ってる箱なの?」
「待ってろ、いま開ける」
リチャードは魔法を複数同時に使う。これは高度な技術ではあるが、スーザンにもできる範囲だ。フィリップ班長にも出来る。
バランスを取ったまま、必要な木箱を抜き出して重ねた箱の上下を入れ替える。それから狭い隙間に見たい箱を置く。
「そら、好きなだけ選びなさい」
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