23•似たもの養父子
スーザンもエシーも、ギルバート・オーウェン・ハウスに行ったのは昨日が初めてではない。時々ではあるが、それなりに利用している。いつもは賑わっていて、狭い店なので入れ替わりも早い。皆軽く雑談して一杯引っ掛けて帰るのである。
2人とも、一杯ぐっと空けて帰る時もあれば時間をかけて杯を干す時もある。店にしてみれば目立たないふつうの客だった。むこうは客商売なので、顔は覚えられていたかもしれないが。少なくとも、酒豪として認識されたのは確実に昨日のことである。
「昨日は昼から呑んでペース上っちゃってたから、ちょっと印象付けちゃったんだけどさ」
スーザンは切り身魚の香草揚げに果物酢を振りかけながら白状する。
「その時はお客さんあたしたちだけだったし」
リチャードが香草揚げの白身魚に歯を立てる。衣がパリッと音を立てて砕けた。
「ブルートパーズを呑んだ後またすぐ来るお客さんにどう反応するか知りたくない?」
「それはエシー君がいるだろ」
魚を飲み込んだリチャードが答える。
「あたしがターゲットなら余計に反応が面白そうでしょ」
「遊びじゃないんだぞ」
リチャードはニタニタしている。口ではまっとうなことを述べながらも、表情はスーザンに全面同意していた。
「おじさんの魔法毒解毒剤しっかり予防で飲んどくし」
スーザンはまた魚を齧る。リチャードも残りの魚を平げた。
「この際作り方覚えろ」
「やった!解禁?」
「明日夜までに材料揃えとけ」
「りょーうかいっ!」
2人は同時にミント水が入ったジョッキに手を伸ばす。適温透明という魔法の素材で作られた透き通ったジョッキである。この素材は、中のものを最適温度に保つことができる夢の物質だ。若い頃のリチャードが開発した便利素材で、今では外国にも普及している。
ただ、多少傷つきやすいので、定食屋や居酒屋では劣化版の頑丈透明という素材が使用されている。
ギルバート・オーウェン・ハウスで使われていた透明な魔法素材は保冷特化の全く別の素材だ。これはリチャードとは関係がない。いつの間にか流通していて、主に国内の一般家庭で重宝されている。
「解毒剤を教えるだけだからな」
無理矢理厳しい顔を作ろうとして、リチャードは眉間に皺を寄せる。ナイトラン養父子は同時にミント水を煽る。
「材料が揃ってなければダメだからな」
2人は同時にジョッキを置く。
「わかった!」
スーザンは目をキラキラさせて頷く。給仕のテレンスがチーズと果物を盛り合わせた皿を運んできた。今日はお酒がないため、量は少なめだ。
「フィリップ殿下は自分で説得しろ」
「うん!話してみるよ」
「何かウンと言わせるネタが必要だな」
「フィル班長も頑固だからねえ」
リチャードとスーザンは、2人していたずらを企む悪ガキのような笑顔を浮かべていた。
★透明な魔法素材→保冷特化
★透明頑丈→少しの間適温、頑丈
★適温透明→常に適温、繊細
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