22•夕飯の席で
結局、夕飯の前に竜寄せの笛につける装飾の案は浮かばなかった。
(素材を見てから決めればいいか)
時間が来たので食堂へ行く。2人きりの夕食だが、寂しくはない。型破りの養父子であるから、テーブルマナーもそれ程煩くないし、食卓での会話も許されている。
「装飾は決まったか?」
「まだ」
「間に合いそうか?」
「たぶん」
「なんなら断ってもいいんだぞ」
「えっ、正式な依頼書貰ったのに?」
スーザンの手が止まる。分厚いステーキにフォークを刺したまま、お行儀悪く宙に浮かせている。
「お守りが欲しいだけだからな」
「余計断れない」
「まったく、仲良いな」
「仲はいいけど」
スーザンはもごもご言い訳しながら、食事を再開する。今日は2人とも酒は呑まない。リチャードは寝不足な上に明日は早くに出張調査である。万が一支障がでては大変だ。スーザンもこれからお守りがわりの竜寄せの笛を作るのだ。変なものが出来上がったら渡せなくなってしまう。
「ほかに何かできないかな」
「お前が狙われてる理由がわからないからなあ」
「町番が全員現地に行くわけじゃないよね?」
「そりゃあそうだが」
酒の代わりにミント水を飲みながら食事は進む。肉の後には魚と野菜の香草揚げが供された。リチャードの大好物である。これが食卓に載ったのには、特別な理由はなかった。
遠征の前日とは言え、リチャードは十中八九普通に明日も帰宅する。移動の魔法を使えば一瞬なのだ。どうしても団体行動が必要な場合には諦めるが。
「フィリップ班は誰か残るの?」
「いや、みんな現地組だ」
「エシーは?」
「ギルバート・オーウェン・ハウスをしばらく調べる予定だ」
「1人で?」
「情報通信部隊から1人つく」
「むしろ、面が割れてんじゃないの?」
情報通信部隊は諜報活動も行っている。新種の穀物から作られた危険な高級酒を扱う、裏町の酒場。そもそも高級酒を出すような店ではない。その上、酒の存在と生産地の印象を消してしまう。そうした怪しいバーならば、むしろ本職の情報通信部隊所属騎士を把握しているのではないか。
リチャードはミント水を一口飲むと、少し考えてから口を開く。
「それはそうなんだが、やはりエキスパートがいないと危険だろう」
「エシーが行くなら偽装道具を使えるだろうけど」
「いや、そっちはむしろ念のため使わない」
「あの店、魔力の流れはおかしくなかったよ」
「見抜かれたら危ないだろう」
「うーん」
スーザンは葉物野菜をカリカリに揚げたものを齧りながら唸る。
「やっぱりあたしが行くほうが良くない?」
お読みいただきありがとうございます。
続きもよろしくお願いします。




