20•飛竜を投げる
騎士学校飛竜投擲部隊コースの訓練生達は、首都郊外の比較的平和な低山に到着した。この山の山頂から尾根道を経てやや高い山を越える。下山した先は渓谷であり、飛竜の住まう岩山へと続く。そこから先は頻繁にラスカルジャークが湧く深山地帯だ。
ラスカルジャークが湧く原理は解明されていない。とにかく湧く。どうやって増えるのかも不明だ。姿は何種類かある。毛深いもの、人の背丈を3倍は超えているもの、鋭い角をもつもの、羽のあるもの、鱗やヒレのあるもの。
ラスカルジャークは、毒を振り撒いたり、人を襲ったり、人里にやってきて破壊活動を行ったりする。知性はないと言われているが、鍵は開けるし魔法の防犯システムも簡単に突破する。実際には人間より知能が高いのかもしれない。
「この先はいつラスカルジャークに遭遇してもおかしくない」
入学式の翌朝、一行は渓谷にいた。岩山へ入る時教員が皆に注意を促す。
「各班長の指示に従い、班員は逸れないで進むように」
「はい!」
元気に応えた子供たちは、靴紐を締め直す。昼休憩まで2回の水分休憩を経て、岩だらけの山中を登って行った。
「昼にするぞ」
教員の掛け声で、各班円を作って座る。朝、登る前の渓谷で手に入れて調理した魚や木の実をお弁当として食べる。
「君たち、強化はできるよね?」
フィリップ班長の質問に、4人は頷く。
「じゃ、食べたら投げる練習しようね」
班長が指差す先を見れば、飛竜が数匹こちらを見ていた。昼を取っている場所からやや離れた岩棚で、羽を畳んだ飛竜が集まっている。見慣れない人間の一団を警戒しているようだ。
4人の新入生は急いで昼食を終える。各自魔力を巡らせ、体力も充分に回復した。他の2班に比べてフィリップ班の回復は早かった。フィリップ班長はにこりと笑って立ち上がる。
大柄な赤毛の少年は、荷物を背負ったまま軽やかに跳んだ。スーザン、リサ、ビルも続く。ティムはややもっさりとではあるが、なんとかジャンプした。
飛竜のいる岩棚の手前に一旦降りる。フィリップ班長は腕全体で止まれの合図を送る。4人の班員が注目する中、フィリップがひと跳びで飛竜の棚に降りる。降りる勢いで飛竜の尻尾を両腕に抱えて、飛び上がりざまに上空へと投げ上げた。
投げられた飛竜は、更に上方にある灌木の茂みへと落ちてゆく。フィリップ班長は風の魔法に乗って4人の元へと帰ってきた。怒り狂った飛竜が灌木を蹴散らすと、毛むくじゃらのラスカルジャークが四方に飛び散るのが見えた。
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