2•スーザン
1話千字程度、ヒーロー登場は4話目です。
スーザンは苛立ちを超えて困惑していた。
「え?なんの誤解?」
「や、え?じゃあ、デイヴィスの、うそ?」
「デイヴィス?誰?」
「デイヴィス・レイニーフィールド=ゴルドフォーク長槍卿、俺のルームメイト」
「まじだれよ?」
エシーは眉間に深い皺を寄せる。
「え。なに。もうそう」
「デイヴィスって奴が、あたしのこと恋人って?言ったの?」
「騎士学校の頃からだから、もう5年くらい毎晩惚気られてんだけど」
「こわ」
「うん。こええな。本当に嘘なのか、わりい」
「あんた、あたしのこと、色々教えてないよね?」
「え、だって。可愛い可愛い自慢以外は、わりと詳しかったぜ?子供の頃俺たち2人で熊倒した話とか?」
「なにそれ、え?なに」
スーザンは青ざめた。
「何で知ってんの?親にも内緒なのに」
「俺も言ってねえよ?」
「ちょっと、そいつ、まじなに」
スーザン・レザーカットは田舎騎士の娘であった。ある日、狩に来た領主に森の中で出会い、その恐ろしいまでの身体能力を買われて十を数える歳の頃に養女となった。レザーカット家にはスーザンの上にも下にも男女取り揃えて子供がいたので、なんの支障もなく領主リチャード・ナイトランの家に入った。
領主リチャードは、若い頃には害悪魔法生物防衛の最前衛でその名を轟かせた大魔法卿その人である。凶悪な生命体ラスカルジャークとの戦いで片足を負傷して、ひとまず最前線からは退いた。
そうは言ってもそれほど大人しくはしていない。何かと理由をみつけては田舎の領地から飛び出して行き、魔境へ飛び込まんばかりの勢いでラスカルジャークを狩る。その度に、誰かに捕獲されて田舎に送り返されるのだ。
送り返された先では、代々ナイトランに仕える執事の一族に連なるサミュエルが待ち構えている。
「ご主人様、そんなことよりお嫁さまをお迎えにならないと、お家が滅んでしまいます」
「何を時代遅れなことをほざくのだ。今時養子など当たり前だよ」
「魔法使いの血筋は貴重です!」
「前線じゃ優れた剣士も伝令もおんなじように貴重だがな」
大魔法卿リチャード・ナイトランは、人界防衛に命をかける。色恋を知らないわけではないが、魔境付近にばかり行ってしまうため、あっという間に振られてしまう。そんな生活をしていれば、そもそも出会いが少ないのもある。そうこうするうちにもう五十路を超えてしまった。国どころか人界を守る大任を担うナイトラン一門の当主としては、後継問題から逃げてばかりはいられない。
スーザンとの出会いは、リチャードにとって願ってもない機会であったのだ。
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