19.フィリップ班
スーザンの配属されたフィリップ班は、他の2斑に比べてなんとなくのんびりした面々が集められていた。
フィリップと同じくらい体格の良いティムは、大きな体の使い方がまだよくわかっていない。狭い山道では歩くたびに枝を折ってしまう。しかし、魔法は得意なので、成長すればかなりの戦力になるだろう。
魔法は苦手だが視力が高いビル。ぼんやり立っているように見えて、実はいち早く障害物や動物の接近に気づいてくれる。山岳地方でいきなり襲ってくるラスカルジャークに対抗するには、なるべく早く発見することが必須だ。
剣が得意で身軽な少女リサ。身体強化系の魔法が得意な為、飛竜投擲部隊に配属された。その素早さは魔法で更に強化され、12歳ながらも飛竜の背中に飛び乗ることすら容易なのだ。無理なくバランスをとり、いつも余裕の表情である。
そしてスーザン。何もかもが規格外、リチャード・ナイトラン・大魔法卿の跡取りである。生来のおおらかさと同類の養父から学んだ豪快さ。骨太長身の少女は、どこでもリラックスできた。
「僕はフィリップ。フィルでいいよ。みんなとあんまり歳も違わないし」
「フィル班長ー、何歳ですか」
リサが質問する。皆気になっていたので、好奇心に満ちた眼差しがフィリップ班長に集まる。
「14歳だよ」
「えっ、学生?」
「うん。班長にされちゃった」
特に気負うでもなく、フィリップ班長は穏やかに答える。通常班長は正規の騎士団員が務めるものだ。3年生在学中のフィリップが抜擢されたのは、特例中の特例である。
「殿下、なんですよね?フィリップ第一王子様なんですか?」
大きな体のティムが遠慮がちに聞く。
「うん。でも訓練中はそういうの関係ないよ」
「いや、気になるでしょ」
ビルが思わず突っ込み、皆が笑った。
「じゃあみんな、装備支給受けたらもう一度ここに集合ね」
「はーい」
飛竜投擲部隊は、今日から山岳地帯へと出発する。次に町に降りて来るのは卒業式の日だ。この部隊だけ、実戦訓練のみで訓練期間が構成されている。入学試験の結果、基礎訓練は各自終了していると認められた精鋭なのだ。
「保存食の支給も忘れずに受けてね」
他の部隊には今日支給されない物だ。遠征用の非常食である。飛竜投擲部隊訓練生の新入生たちは、順次受け取って集合場所に戻る。
「おっ、干し肉か」
「干し芋もあるね」
袋の中身を確認しながら、初対面の班員たちが仲良くなってゆく。フィリップ班は班長が若いこともあって、いち早く打ち解けていた。
他の2班も合わせて総勢12名の飛竜投擲部隊訓練生、教員1名、班長3名。いざラスカルジャークが徘徊する山奥へと旅立つ。
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