16•お守りが欲しい
過保護が決定されたと知って、スーザンはとりあえず鍛錬することにした。他にすることもないのである。
夜になって、今度こそ普通にリチャードが帰宅する。疲れ切った様子であった。
「明日から現地調査に行く」
「え、おじさんが?」
「ああ、正式に許可を得た」
「王様、よく許してくれたねえ」
どうせ勝手に行くのである。いっそ正式に任命する方がいろいろと都合がいいのだ。そして、未知の植物や強力な魔法が予想される土地である。リチャードほどの適任はいないだろう。
首都での執事を申しつかっているチャールズが上着を受け取る。リチャードは手にした封書をスーザンに渡しながら部屋へと向かう。
「殿下から直々の依頼書だ」
「あたしに?」
不思議に思いながらスーザンは封書をあけた。
「竜寄せの笛を明日の朝までに?素材どうすんの?もっと早く言ってよ!」
「いや私に言われても」
「おじさんごめん」
「いや、いい」
竜寄せの笛とは、投げるべき飛竜が周囲に見当たらない時に呼び寄せるための道具である。竜の爪を削って作る特殊な呼び子だ。
「全くフィリップ殿下は。弁当が欲しいとか、イニシャル入りのハンカチをくれとか、なんかもっとロマンチックなことが言えないのかね」
リチャードのぼやきにスーザンがかあっと赤くなる。
「ええっ!そういうことなの?フィル班長が?あの?」
互いに尊敬し合い、信頼し合い、仄かな想いを寄せながらも、2人は今まで明確な恋心を抱いているわけではなかった。フィリップ班長は今朝、スーザンの態度に突然激しくときめいた。しかしそれは、フィリップの抱く「真剣にスーザンを守りたい」という気持ちが届いたからこそ、見ることができた態度なのだ。
結局は、互いの心の中に想いが育っていたのだ。エシーからみれば、とっくに付き合っているようにしか思えないほどに。
だが、そうは言っても、想い人から「他の女性の存在」ではなく「自分を含む女性へのアプローチそのもの」を想像できないと断言される男である。危険な任務に出る前にお守り代わりの品を恋人にねだるとは、スーザンには想像もつかなかった。
「そういうことだ」
「ええー」
スーザンは熱くなった頬を押さえる。
「材料は心配するな」
「ストックがあるの?」
「まあ、そんなとこだ」
スーザンは着替えに行くリチャードを階段の下から見送って、夕食を待つ間庭へと続く小部屋で竜寄せの笛のデザインを考える。構造は単純なのだが、それだけに装飾で個性が表現できるのである。スーザンが今使っているのは、筒の中程にぐるりと一筋だけ赤い線が入っている。フィリップ班長のは真っ黒に塗られて、繊細な浮き彫りで飛竜の姿が描かれていた。
「時間もないし、複雑な模様はむりだな」
スーザンは、ヒントになるものを求めて、宵闇に沈む庭を眺めた。
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