13•レイニーフィールドの謎
フィリップ班長は蕩けるような笑顔を見せる。それからまた表情を引き締めると、きっぱりと言う。
「レイニーフィールドには絶対に渡さない」
「はい」
「ゴルドフォークはおかしいんだ」
「レイニーフィールド醸造所の件すか」
「醸造所?いや、誰もが殆ど印象にないんだよ」
「誰もが?」
スーザンはぞっとする。昨日からレイニーフィールドの話題が出るたびに感じる薄気味の悪さに身を震わせた。
「ああ。確かにレイニーフィールドが管理しているゴルドフォーク地方の記録は平凡だ」
「平凡な農業地帯すね」
「だが、だからといって、そこの当主やその家族と誰も親交がないのは変だろう?」
「すね」
「まして、スーを恋人だなんて言いふらしてた長男のデイヴィスは、肩書きまで賜っているのに」
ルフナーメは、ここレジェンダリー王国で何か大きな功績のあった人物に授けられる。そんな重要な活動をした者が、誰からも薄い印象だというのはおかしい。
「フィル班長、青色麦火酒って知ってます?」
「いや」
「あたしも昨日知ったんすけど」
「うん」
「裏町のギルバート・オーウェン・ハウスで勧められて」
「さっき言ってたレイニーフィールドフィールド醸造所か」
「っす」
フィリップ班長は緊張を見せ、ティーカップに口をつける。流石に王族だけあって、一般男性の倍はありそうな手でありながらも優雅に茶器を扱った。普段飛竜投擲部隊の班員たちと豪快に酒を飲む姿とはあまりに違うので、スーザンは見惚れてしまう。
フィリップ班長がカップを下ろすと、スーザンは気を取り直して説明を始める。
「ブルートパーズは、青色麦って言う新種の穀物から作るそうっす」
「新種?」
フィリップの顔に疑念が広がる。スーザンは真剣な表情で頷く。
「麦に似た植物だけど原種は公表されてないんすよ」
「新種の開発は農業管理局に申請が必要だよ」
「もしかして、ゴルドフォーク地方の資料にもありませんした?」
「なかった」
ギルバート・オーウェン・ハウスの店主によれば、青色麦は成分も一切公表されていないということだ。
「国にだけ報告する方法は、100年前に魔法毒の原理が解明されてから禁止だよ」
「すね」
「魔法以外にも特定の成分が毒になる人は大勢いる。未公開は本来あり得ないよ」
「あの酒場の親爺は気にせず勧めて来たっす」
「飲んだの?」
フィリップ班長が青褪めて身を乗り出す。
「すぐ店を出て魔法毒解毒剤飲んだっす」
「他に毒は」
「なさそうした」
班長はほっと息を吐く。
「それで、青色麦なんすけど」
「うん」
「凄い青に紫の斑点が付いてて」
「え?」
「気持ち悪い見た目なんすよ」
「よく酒にしようと思ったな」
全くである。スーザンも同意見だ。
「それが、そのままでは不味いらしくて」
「うん」
「お酒にしたら美味しくて香りも極上になったみたいっす」
「そう言うケースもあるにはあるが」
「そんな高級品が話題にならないのがおかしいっすよね」
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