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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
竜を投げる女のお見合い前夜
1/70

1•疑惑の恋人

1話千字程度、ヒーロー登場は4話目です。




 休暇中の女騎士スーザンは、とある長閑な春の午後、昼から呑める居酒屋にいた。煤けたような灰色の癖毛を適当に纏めて、目の前の食事を澄んだ緑色の瞳で嬉しそうに眺めている。


ここレジェンダリー王国では、赤ん坊でもアルコール分解能力が高いため、15にもなれば酒類解禁である。スーザンは今年で17歳。昼ごはんには、皮をパリパリになるまで焼いた鷄を山盛りの野菜やポテトと一緒に泡酒(ビール)で流し込む。勤務日にはけして出来ない贅沢だ。


「スーザン?」

「エシー?」

「やっぱりスーザンか!」

「エシー、大きくなったねえ」

「スーザンもな」


 居酒屋でばったり出くわしたのは、幼馴染の青年エシー。がっちりとした体格の彼もまた騎士である。それも王宮勤めの精鋭だ。平凡な茶色の髪を無造作に撫で付け、人の良さそうな青い瞳はエリート騎士にはとても見えない。


 2人は騎士学校に3年通い、順調に騎士団へと入団した。エシーは王宮騎士団魔法技兵部隊に所属して2年目である。スーザンは飛竜投擲(とうてき)部隊に所属してやはり2年。訓練期間は同じだが、飛竜投擲部隊は山奥で初期訓練をする。文字通り飛竜を投げる、敵陣に投げ込む筋力魔法特化部隊だ。隊員は擲竜(てきりゅう)騎士と呼ばれる。


 飛竜投擲部隊候補生は騎士学校時代から山にこもりきりである。正式入団後もしょっちゅう、山岳地方に湧く害悪魔法生物ラスカルジャークの討伐に出かける。

 そんなわけで、2人が会うのは実に5年ぶりであった。



「何今日、休み?」

「うん。エシーも?」

「休み。ここ座っていい?」

「どうぞ、空いてる」


 エシーはスーザンの向かいに腰を下ろすと、店員を呼ぶ。


「定食ね。あと大ジョッキひとつ」

「はいよー、定食と大ジョキ!」


 威勢よく復唱した三角巾姿のお姉さんが立ち去ると、2人は会話を再開した。


「いつぶりよ?」


 エシーはエリートらしからぬ荒い言葉で話しかける。スーザンは気にする様子もなく気さくに答える。


「騎士学校全体入学式が最後?」

「うわあ、そんなんなるかぁ」

「え、5年?5年だよね?」

「スーザン変わんねえなあ」

「失礼な。5年前って言ったら12歳でしょ」

「いや、雰囲気がさ」


 エシーは運ばれてきた頑丈透明(タフガイ)という魔法素材のジョキを受け取り、軽く店員に会釈する。この素材は中身を多少の時間なら適温に保てる優れものだ。


「こう見えても王子様から縁談が来てんのよ」


 スーザンが自慢そうに言い放つと、エシーはいま口をつけた酒にむせる。


「はあっ?」

「なあに?ほんと失礼」


 エシーはジョキをドカンと置くと、睨みつけるようにスーザンを見た。


「王子様って、まさか、筆頭世継ぎの」

「そ」

「運を腕力でねじ伏せる、あの」

「ん」

剛腕卿(ヒットアンドゴー)フィリップ?」

「だね」


 エシーは再びジョキを持ち上げると、今度は乱暴に半分ほど煽る。


「おい」

「なに!」


 スーザンはイライラしてきた。何をそんなに睨むのか。


「そんな縁談断れ!」

「はあ?何言ってんの?」


 突拍子もない命令口調だ。スーザンの理解を超えた発言である。


「断れ」

「私に何が出来んのよ」


 一介の女騎士に王家からの縁談を断ることなど出来ない。


「じゃあ、俺が親父さんに言ってやる」

「下っ端騎士が首席大臣に会えるか!」


 首席大臣とは、王様の側近中の側近、懐刀とでもいうべき立場の人間だ。


「会わせろ!」

「無理でしょ」

「まさかお前、本当に王子に乗り換え」

「は?乗り換え?私、恋人いませんけど?」


 それを聞いてエシーは変な顔をして固まった。


お読みいただきありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

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