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短編 テンプレのような異世界転生。あるいは胡蝶の夢。

作者: ジプシー

「僕の想像だけど、この世界は何となくで作られてるんだ。一年は365日。うるう年はない。月の満ち欠けはある。太陽は毎日同じ軌道。それなのに季節があるし、大体日本の緯度と一致する。」

「????」

「星座もあったりなかったりする。数億年後の地球かな? でも、北極星は正しいし、僕の知っている事実に合わないこともある。惑星の動きなんかも微妙。あと大きな違いは植物かな。ここの土地には日本全土の植物が生える。それも脈絡なく。生き物もキツネが出るわ鹿が出るわ、もうなんでもあり。そんな変な要素を全て足した結果、みんなの何となくを合わせて作った世界をそのまま作ったらこうなるんじゃないかなぁと僕は思ったわけだ」

「????」

「僕はこの世界を消したい。そうしたほうが皆幸せだから」

「??????????????」

「じゃ、僕のあいさつは以上。名前はロックを名乗ってる。不死身の超人。音楽的な意味では青少年の反乱。本名も有るけれど、この名前のほうが勇気が湧きそうだから」

「ロックさん!」

 全力で叫んだ。

「一ミリも理解できないんですけど、ここって一体どこですか!」

「・・・ところで君の出身は?」

「千葉ですよ。それも田んぼだらけのド田舎の」

「最後にいた場所は?」


 記憶がよみがえる。学校の帰りに自転車に乗って、信号を渡って・・・!?

 ここは!?


 気づいた瞬間体の制御が失われる。足腰は砕け、両手を付く。

 一瞬遅れて頭が割れるように痛み出した。肺から急激に酸素を奪われ、記憶が鮮明によみがえる。


 信号を渡ろうとした瞬間、トラックに吹き飛ばされ一瞬空を舞う。痛みは感じず、脳が理解を拒んだように意識を吹き飛ばしたようだ。

 風を感じ、冷たさと温かさを同時に感じるような、あるいは眠りの入り口のような感覚を思い出す。


 いくら吸っても酸素が入ってこない。肺がぺったんこになったように中身が入らず痙攣のような呼吸を繰り返す。

「吐け。いいか、息を吐け。吐くことだけ意識しろ」

 ロックさんは僕の体を持ち、地面に転がした。

 太陽がまぶしい。

「吐け。吐いた分だけ勝手に吸う。吐く時に気合を入れろ」

 意思に反して浅い呼吸を繰り返す肺を無理やり押し込む。

 何度か繰り返すと少しづつ肺が厚さを取り戻し、喉を通る空気の涼しさを感じることができるようになってきた。


 まだまだ粗いがマラソン直後ぐらいには改善した。

「ゼハー、ゼハー」

「肺から空気を追い込め。しゃべってもいい。意識して吐き続けろ。そうすればもっと楽になる」


「それで、ロックさん。ここどこです」

「さっき一通り説明した。上のほう見返せばわかる」


 ・・・・・・そんなメタな。


 ある程度呼吸が落ち着いた後、立ち上がってみる。

 見渡すと周囲は畑に囲まれ、山も森もあり、大きな建物もあるようだ。

 ロックさん曰く、あの大きな建物は自然の家みたいなものでいくつかの個室があり、生活に困らない程度のものはそろっているらしい。

 燃料は薪しかないが。


「つまり、よくわからない世界だと」

「もう一度説明しようか?」

「いや、いいです」

「それで、僕はどうなったんですか」

「それもよく聞かれるが、結局答えには意味がない」

「どういう意味です?」

 ロックさんはおどけて韻を踏んだ。

「あの世はいいとこ一度はおいで。この世にはない極楽浄土。誰も帰ってきやせんて」

「意味が分かりません」

「現世は夢。夢こそまこと。胡蝶の夢」

「江戸川乱歩ですか?」

「この世から見て、あの世がわからないように、この世界から見て元々持っていた記憶の世界がどうなのかなんてわからない。死後の世界を信じるかい? ここがそうかもしれないし、走馬灯かもしれないし、ここが現世で君の記憶が夢かもしれない」

「哲学的すぎませんか」

「具体的に説明したほうがいいかい?」

「いや、いいです」

「ま、僕の目的はこの世界を消すことだから、君も早く成仏しなよ」

「ちょ、待ってくださいよ!」






-----ロックの独白-----


 俺は許せない。

 これでいいだろとしたり顔の神様が。

 やるだけやったと真顔で話す神様が。

 改善してるし努力してるし最高だろと押し付けてくる神様が。

 自分勝手に人に与えて、責任取らず逃げるのか。

 俺は許せない。

 「それらしい」物を作って、「それらしく」あり続けるためしばりつけた神様が。

 それなら自分で住んでみろ。傲慢だよ。誰も彼も。そして俺も。

 だから、月に向かって吠えるのだ。世界を月を太陽を、いざ食らわんと吠えるのだ。



 自分がここに居続けることでこの世界をゆがめてしまうのではないか。

 そもそも誰かがずっと居続ける事を想定した場所ではなかったのではないか。

 流れ続ける流転の中の一つの場所に、たまたま淀んで出来た岩の苔みたいなものが自分という意識を保っていることをなぜ否定できるのか。

 人の記憶と人に似た体を持ったもっとおぞましいモノでは無いとなぜ言い切れるのか。

 だから、この世界ごと壊す。それが唯一、自分の在り方だから。

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