双光戦士シンフォニーライト! ~幼馴染み二人が変身ヒロインになった俺の話~
ノクターンみたいなタイトルですがKENZENな話です(?)。
ノリと勢いで書いたので単発ネタ。
今にも雨が降りそうな曇天の下、本来なら人が多く行き交うはずの街中は今、悲鳴と怒号に支配されていた。
悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。
それを見て、怒号を上げるのは怪物だった。
その姿はまるで人のように二足歩行するワニ。
三メートルにも達する身長、発達しすぎた筋肉、全身に岩のようなトゲを鱗のように生やし、丸太のように太いがしなやかに動く尻尾を振り回して近くにあった車を吹き飛ばす。
「コワス! コワス! コワスゥゥゥゥゥゥゥッ!」
口から涎を垂らしながら叫ぶ怪物は、知性の欠片も感じない。
ただただ衝動に突き動かされるだけ。
駆け付けた警官たちが発砲するが、硬いその鱗に弾かれてしまう。
警官たちの表情が絶望にそまる。
けれど、それを吹き飛ばす声が響く。
「「セッション!」」
二人の少女の叫びが、曇天を切り裂き大地に光をもたらす。
「「シンフォニー! アーップ!」」
虹色の輝きが少女たちを包み込み、まるで花の蕾のような形をとる。
それが花開く時、サンライトイエローとブルームーンの衣装を身に纏った少女たちが現れる。
「暖かな温もりの使者! サンライト!」
「静かなる安らぎの使者! ムーンライト!」
「「我ら、シンフォニーライト! 邪悪なる者よ、退け!」」
少女たちは装飾の施されたバトンを器用に回しながらポーズをとると、怪物に向かってそれを突き付ける。
ちなみにここまで全自動。
「コワス!」
けれど怪物は気にすることなく手を振り回すと、少女たちに向かって突進をする。
一歩一歩コンクリートを削りながらのそれは遠く離れていても恐ろしく感じる。
その標的となった少女たちの恐怖は、どれほどだろう。
「いくわよ!」
「ええ!」
サンライトの声にムーンライトが応え、二人も地を蹴る。
怪物とは反対に重力を感じさせない軽やかさで二人は怪物に急接近。
怪物がその剛腕を振り回し、二人を叩き落とそうとするがまるで踊る様に見事なステップでそれを避け、無防備な背中にバトンを叩きつける。
オレンジとブルーの閃光が弾け、銃弾すら受け付けない棘のような鱗がいとも簡単にはじけ飛んだ。
「グオオオオオオオオっ!?」
予想外なのだろう。
無敵だと思っていた装甲が、まるでポテトチップスのように簡単に砕かれてしまったのだから。
「ヤアアアアアアアアアアアッ!」
「ハアアアアアアアアアアアッ!」
見事に息の合ったコンビネーション。
怪物の凶悪な腕を、足を、尻尾の攻撃を踊る様に避け、受け流しながら二人は怪物にバトンを叩きつける、
二色の閃光が弾けるたびに破片が舞い、怪物の絶叫が響く。
その光景に、警官たちは茫然としている。
「ぐ、ぐお……」
あれだけ猛威を振るっていた怪物だったが、特効持ちの攻撃を存分に叩き込まれれば弱ってしまう。
「いくわよ!」
「ええ!」
怪物が弱って動きが止まったのを見計らい、二人がバトンを交差させる。
今まで以上に光が交差した部分に収束していき、
「「ユニゾンウェーブ!」」
オレンジとブルー、二色の光が螺旋を描きながら極太のビームとなって怪物を飲み込む。
ビームに晒され、怪物はその光の中に溶けるように消えていき、ビームが打ち終わったそこにはやせ細った、どこにでもいそうな男がボロボロの衣服を纏った姿で倒れていた。
その光景を見届けたシンフォニーライトの二人は頷き合うと高く跳躍し、ビルの向こうに姿を消した。
*****
「お疲れー」
「はぁ~疲れたよ~」
「もうへとへとですよぅ」
所変わって俺、粕屋虎一の自宅にして俺の部屋には、二人の美少女がだらけきっていた。
ポニーテールで活発そうなのが陽元灯。
三つ編みで文学少女っぽいのが月城夜美子。
二人と俺は幼馴染だ。
マンションの同じ階に住んでいて、どこの家庭も共働きで、同じ保育園に通っていたことから交流が出来て、いつの間にか一緒にいることが多くなった。
一人で家にいるよりかは寂しくないから、お互いの家をローテーションで行き来して、本を読んだり、ゲームをしたり、もちろん宿題もした。
小学校に上がってからは子供特有の揶揄いにあったが、俺は気にすることもなくいたので二人とは疎遠になることもなく、結局は高校生の今に至るまで家族のようにこうして集まる。
「よくやったもふ! 今回のはバイツジャーク。とっても凶暴なやつもふ!」
だらけた二人(シャワー済)にジュースと軽食を振舞っていると、空中にデフォルメされた羊みたいな毛玉が甲高い声で叫びだした。
相変わらずテンション高ぇな。
「これで封印できたのは二十九体! あと一体で三十もふ! この調子で頑張るもふ!」
こいつの名前はもっふ。
妖精界とかいう場所からやってきた珍生物だ。
さて。
なぜこんな珍生物がいるのか?
それは数か月前まで遡る。
高校生になって間もなく、新しい制服に身を包みながらもいつもの通り三人での学校帰り。
どこからか子供の苦しむような声が聞こえて探したら、植木の中に拳大ほどの毛玉がいた。
それがもっふだった。
もっふを保護して俺の家に集まって、こいつが俺の家の食糧をあらかた食い尽くしやがった後に聞いてもいないのに喋りだしたのだ。
「僕たち妖精の国で保管していたジャークシードがうっかり妖精のばっふのせいで封印が解かれた状態で地上にばらまかれてしまったもふ! すぐにでもまた封印しないと地上が大変なことになってしまうもふ! 封印するには伝説の戦士、シンフォニーライトの力が必要もふ! 僕の姿が見える君たちにはその適性があるはずもふ! さぁ、このバトンを使ってジャークシードを封印するもふ!」
勝手に人の家の食糧を貪り食った挙句、自分たちの失敗を悔いることなく訳の分からないことを言って、最終的には戦うことを平気で強要してくる。
まず掴んで、窓を開けて外へ投げた。
もちろん全力で。
毛玉は食べかすをボロボロこぼしながら俺の幼馴染二人を交互に見ながら熱弁していた。
無視された格好だがそこはどうでもいい。
俺の大事な幼馴染二人に危険な事をやれというのならそいつは敵だ。
「なにをするもふ!? 危ないもふ!」
危ないのは毛玉の思考回路だ。
そもそも、うっかりでそんな危険なものが解き放たれる管理体制なのが悪い。
それに、責任をとるならそいつにやらせればいい。
というよりも妖精とかいう連中総出でまずやれ。
俺が毛玉にツッコミという名の説教をすれば、
「? 妖精は非力もふ」
当然の事だろ? 何言ってんの?
そんな感じで自分たちは戦わない。むしろ伝説の戦士の力に選ばれたんだから当然戦うだろ?
当然、二球目もいった。
けれど当然のように戻ってきて二人に戦うことを強要するので包丁を取りに台所へ向かったその時、爆発音が鳴り響いた。
窓から外を見れば、黒煙が。
爆発事故かと思ったが、毛玉が叫んだ。
「ジャークシードに取り付かれた奴が暴れているもふ! さぁ、戦うもふ!」
最初は拒否していた二人。
けれど爆発したのが親たちが働いている会社のあるオフィス街だとニュースで知って、
「このままではご両親が襲われるもふ! どうするもふ?」
包丁を逆手に持った俺の制止を振り切り、二人はバトンを握り、
「「セッション!」」
シンフォニーライトへと変身した。
*****
「ふむ、こんなものか」
夜、自室にて俺はパソコンにてシンフォニーライトのことで騒がしいネット巡りを終える。
世間では謎の化け物のことも騒ぐが、ネットではもっぱらシンフォニーライトのことが注目されている。
だってさ、凶悪な化け物よりもそれを軽々と倒してしまうリアル変身ヒロインがいるんだぜ?
やっぱそっちいくだろ?
とは言え、ネット上では結構不満が溜まっている。
なにせ、変身ヒロインの姿を映したであろう写真や画像はすべてブレッブレか、靄がかかったように煙っていて、詳細がまったく分からないからだ。
これはあのファッキン毛玉曰く、
「妖精の力もふ!」
だそうだ。
どれだけ問い詰めても詳細が分からないからもはや諦めた。
自分でネットを調べたらどうやら俺以外の人間には二人の姿はぼやけて見えるようだ。
画像や映像は先ほども言ったようになり、肉眼でもぼやけているようだ。
だからネット上では様々な予想が乱立している。
それを見ながら、俺は愉悦に浸る。
日本中が、いや最早世界規模で注目されているシンフォニーライト。
流石に二人の口上は聞こえているので個々の名と二人合わせてシンフォニーライトだということと、ぼやけていても衣装の色は分かるので細かな所は皆の知るところだ。
けれど、それ以外は皆知らない。
俺以外は。
ククク、うらやましいだろう?
二人が初変身したのは、この、俺の、部屋だ。
しかも至近距離で、変身後の衣装をじっくりたっぷりネバネバと見ることができたのだぜ?
シンフォニーライトの衣装は、レオタードにロリータというのか? フリルのついた服を着ている、と言えば良いのか。
レオタードは純白で、ピッチリタイプ。
それだけでも俺には刺激が強いのに、ロリータ服の部分も刺激が強い。
こう、最小限しか覆っていない。
お胸の部分と、腰は左右と後ろの部分だけのスカート、後は手首や腕、足首や太腿のあたりに飾りのようにフリルのついたバンドが巻かれている。
後、髪の毛がオレンジとブルーになっていたり。
俺の幼馴染二人は美少女だ。
学校でも男子の人気は凄まじい。
対して俺はそんな幼馴染と一緒にいることで嫉妬が凄まじいが。
そんな事はどうでもいい。
灯は運動神経が良く、ハキハキしている性格だから女子にも友人が多い。
夜美子は優しく、また勉強も得意で俺や灯も含めて皆から学業面で頼りにされている。
そして二人ともおっきい。
これ高校生男子には重要。
そんな二人が自分の部屋で、えちちなコスプレ(正確には違うが)をして、さらにはもじもじと恥ずかしそうに「みないで」なんて言った日にゃもう……。
いかん、いかんなぁ……。
二人は大事な幼馴染だ。
けれど俺は好意をもっている。
ライクではない。
ラブだ!
日本は一夫一妻制だが、俺は二人が好きだ。愛している。
家族みたいだと言ってはいるが、嫁という意味も含まれている。
正直言って二人を他の男には渡したくない。
いや、男女の関係にはなっていない。そもそも告白してもいない。
俺は二人とも愛しているが、二人がどう思っているかは怖くて聞いていない。
俺が異常なだけで、二人は自分だけを愛してくれる人がいいかもしれない。
そもそも、俺が異性として見られているか? という問題が発生するが……。
「くそう」
小さく、諸々への罵倒をこぼしながら、時計を見れば日付が変わりそうなのを見て寝る準備に入った。
明日も学校です。
*****
──欲しいか?
んん。
──欲しいか?
誰だようっせーな。
──二人が欲しいか?
欲しいです!
──お、おう。
ん? 誰だ?
目を覚ませば、そこは勝手知ったる俺の部屋。
時計の明かりでうっすらと家具が浮かび上がっている。
誰の声だ?
両親か?
それとも寝ぼけたか?
──夢ではない。
誰だ!?
声が、出ない?
なんだこれ!?
──慌てるな、粕屋虎一。
うっすらとした部屋の中に、何かが蠢いたかと思えば、そいつは俺のベッドサイドに立っていた。
何奴!?
──慌てるなと言っただろう。
勝手に電灯が付き、その何者かの詳細が明らかになる。
肌の色は、紫に近い紺色。筋骨隆々で、見事な筋肉。レザーのパンツスタイルで、上半身はマッパ。ドレッドヘアーで額には一つの大きな角、吸血鬼のように大きな犬歯、吊り上がった目には黒目がない白一色。
胸のド真ん中にどす黒い宝石が埋め込まれている。
化け物だ。
──失礼な奴だ。
ジャークシードか!?
──そうだ。忌々しいあれに封印されていたが、ようやく解き放たれた。
ところで何ジャークさん?
──我が名は剛魔将モノホーンジャーク! 百八の同胞の中でも、最強の戦士!
ば、ばかな……。
──ふふふ、そう恐れるな。
幹部とかボス格が序盤に、モブの所に来るんじゃねぇよ! 変身中に攻撃するくらいやっちゃいけねぇことだって分かんねぇのかこれだから脳筋は。
──の、脳筋?
いや見た目からそうだろ? そもそもお前らジャークシードの連中の詳細なんぞあのファッキン毛玉がゲロしねぇからいまだに何がいるか知らねぇけど、自分から最強とか豪語するなんて脳筋キャラだお前は。ちなみに俺の独断と偏見だ。
──ふ、ふふ。ま、まぁいい。俺は寛大だから? そ、そんな程度の言葉、っ! 許してやろう。
血管ビキらせながら言われてもなぁ。
で? なんで俺の所に?
──お前、あの二人が欲しいのだろう?
欲しいです。めっちゃ欲しいです。
──素直だな。気持ち悪いくらいに。
いやだって、俺まだ高校生だぜ? そんな物語の主人公みたいにスンゲー意識高くないし。
──ふはは! ならば我の手を取れ! さすれば我が力にて、お前にあの二人を娶らせてやろう!
マジっすか!?
具体的にオナシャス!
──我、未だにお前ほど素直に誘惑に従おうとした奴、見た事ないんだが? 大抵の奴が抗おうと頑張っていたが。
でもどうせ、最後には屈服するんでしょう?
テンプレテンプレ。
──ま、まあいい。我と契約し、我が力を宿せば、この世界の常識などすぐに書き換えられる。この状態では十分の一も力は発揮できんが、お前と契約すれば我が力は十全に発揮出来よう。
そう言えば毛玉が言ってたな。
ジャークシードに封印されている奴らは他の生物に憑りつかないとなんないって。
あれ? でも波長がどうとかも言ってたな?
──そうだ。お前の垂れ流している強欲さ。その波長を我がキャッチしたのだ。
そ、そんな。俺自身が、こんな強キャラを呼び込んだっていうのか。
──恐れるな。むしろ誇るがいい。
で、具体的にはどうあの二人を手に入れられるんで?
──まずは我と契約せよ。話はそれからだ。
具体的な話をお願いします。
──ぬぅ。面倒くさい奴だ。
──まず我と契約すれば我が力がお前に宿る。そうすれば我が力によってこの世界の人の意識や常識など、簡単に書き換えられる。
──そうすれば、お前があの二人を侍らせようとも誰も文句は言わん。
──そもそも、我が力を得ればこの世界を支配することなど造作もないのだ。
──酒池肉林というやつも可能だぞ?
酒池肉林。
いい。
いい響きだぁ。
──うっ。
灯と夜美子の二人を、俺が、ぐふ、ぐふふ、ぐひゃ。
──我が後悔するなど……。
ちなみに、触手はありですか!?
──なに?
触手だよ触手分かってないなぁ変身ヒロインものの定番と言ったら触手だろお前あんだけえちちな美少女二人に対して俺一人じゃ満足させられねぇだろ手がたりねぇよなら触手を使わなきゃならないのは分かり切ったことだろてらてらぬめぬめの色んなバリエーションで俺も相手も楽しんで満足しなきゃ意味ねぇんだよそんでもって最終的にハッピーエンドにならなきゃおかしいんだよバッドは好かんよやっぱハッピーだろねばねばだろ定番だよテンプレだよ古事記にも日本書紀にもノクターンにもそう書いてあるだろそこを分かれよ!
──なにこいつ。
で!? あるのか!? ないのか!?
──こうか?
モノホーンジャークさんのドレッドヘアーがうねうねと動く。
(∩´∀`)∩<Fooooooooooooooooooo!
もう一声!
──こうかぁ?
十本の指がにょろりと伸び、ぐにゃぐにゃと蠢く。
(∩゜∀゜)∩<Fooooooooooooooooooo!
これなら! これなら俺の夢が叶う!
──我ならば、全身を自在に変化させることなど容易い。こんなことは初めてだがな。
さらに指とドレッドヘアーが形を変えていく。
俺好みの良いモノだ。
(∩゜∀。)∩<Fooooooooooooooooooa!
──そ、そうか。ならば我と……。
いや待て。
美味い話には裏がある! そういうのは大体詐欺だ。
「いいかい虎一や。お前も大人になったら世間の荒波に揉まれてしまうじゃろ。そうなったら、苦しいことや悲しい事、色んなことがある」
祖母ちゃん……。
「お金を簡単に稼げる。とってもお得。なんて言葉には騙されちゃならんよ? あたしゃ詳しいんだ」
でも祖母ちゃん、その新品の布団なにさ?
「これかい? 最高級羽毛布団なんだがね、在庫一掃セールとかで店で買うよりかは安く買えるってんでねぇ」
祖母ちゃんそれ詐欺の手口ー!
そうだ祖母ちゃんが身をもって教えてくれた!
モノホーンジャーク! そこに俺の意志はあるのか!?
──…………。
あの二人とぐへへな展開になったとしよう! だがそこに俺自身がいなければ話にならん! お前に意識を乗っ取られるなんて御免だ!
──ほう。
俺の野望に、貴様はいらん!
──くく、やはり抗う……。
貴様の力だけを寄越せ!
──なん・・・だと・・・?
お前の力は魅力的だ。だがお前自身はいらない。
触手は俺自身のものであればいい!
灯と夜美子を手にするのは俺だ!
お前じゃない!
──こいつ、我を呼び寄せるほど邪なくせに……!
さぁ、渡すがいい。
お前の力、俺が有効活用してやろう。
──こやつ……っ!? 自惚れるな人間!
モノホーンジャークが腕を振れば、真っ黒な煙が俺を包んでいく。
くっ、うごけない!
──そもそもお前に拒否する権利などない! さぁ、我が依り代となれ! さすれば我がこの世界を支配してやる!
つ、冷たい……。
なんだこれ……。
あ、眠気が……。
──お前に成り代わるのだ。記憶を見せてもらうぞ。
や、やめろ……。
映像が、俺の頭の中に流れる。
幼い頃、両親に構ってもらえなくてさびしかった。
灯と夜美子と初めて出会った時。
初めて遊んだ時。
ジュースをこぼして濡れた灯。
母親の服を着てだぼだぼの夜美子。
おままごとをして愉悦に浸る俺。
小学校の初めてのプールの授業があるので部屋でスク水に着替えてもらった時の光景。
そこから体操服に着替えてもらった時の光景。
オヤジのデジカメをちょっと借りて撮影した時の光景。
夏になって浴衣を着た二人とお祭りに行った時の事。
ピクニックに行って、足を挫いた灯をおんぶしたこと。
山盛りの落ち葉の塊に夜美子と一緒に倒れこんだ事。
中学に入って、制服にはしゃぐ二人。
また学校指定の水着を着てもらって撮影会したこと。もちろん体操服姿も。
夏の暑い日差しの下で汗をかき、シャツがピッチリ張り付きながらも楽しそうに笑う灯。
ブラウスの襟をパタパタさせて鎖骨をちら見せする夜美子。
扇風機の前に陣取ってシャツを捲ってお腹を冷やす灯。
汗を拭うために第二ボタンまで外す夜美子。
ショートパンツから伸びる太腿が眩しい灯。
スカートから伸びる膝が麗しい夜美子。
シャツを腕まくりして健康的な脇を見せてくる灯。
髪の毛をアップにしてうなじを晒す夜美子。
弾ける笑顔。うなじ。むき出しの二の腕。脇。素足。ふくらはぎ。太腿。お腹。チラ見えする北半球や南半球。
──我、こいつに成り代わるのか……。
俺の記憶の中は、二人の姿で埋め尽くされている。
当たり前だ。
いつも一緒にいたのだから。
──くくく、お前がご執心のシンフォニーライトもお前の姿を使って、我がたっぷりと可愛がってやろう。残念だったな。
あかり……。
よみこ……。
二人が、俺以外に……。
──お前の身体なんだ。いいだろう?
駄目だ……。
駄目だ。
それじゃあ駄目だ!
──なにぃ!?
それじゃあ駄目なんだよ!
俺が! 俺自身が! 触手になるんだ!
──なにこいつ!? なんだそのパワーは! 我が闇を押し返す!?
これは、高校生男子の持つ力!
リビドー!
──な、なんだと!? ダンシコウコウセイとは!?
ふんぬぅ!
よっしゃ動く!
貴様の力の源、そこだなぁ!?
ベッドから跳ね起きて、掴むのはモノホーンジャークの胸にあるどす黒いやつ。
──な、なぜ分かった!?
見れば分かる!
特に特撮作品にありがちだからな!
──と、とくさつ!? ええい離せ! 離さぬか! なんだこの力は!?
リビドー! アーンド! 火事場の馬鹿力!
さぁ、よこせぇぇぇぇぇぇっ!
──ぐ、まさか、この我が! こんな人間に!?
力を発揮できないんだろう!?
ならそのままご退場願おうかぁ!
そして我に触手をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
──ば、ばかなぁぁぁぁぁぁぁっ!
貰ったぁ!
触手パゥワー、ゲットだぜ!
*****
目覚めは、スッキリ。
カーテンを開ければ、遠くに朝日が昇る光景。
「夢……?」
呟く。
昨夜、俺の前にジャークシードに封印されていた化け物の一体が現れる、なんて状況に陥った。
ファッキン毛玉曰く、奴らにはシンフォニーライトの力以外は効かないらしい。
とは言えあの毛玉は信用ならないから、どこまで本当なのかは分からない。そもそもあの毛玉もまた聞きみたいな事を言っていたからなぁ。
まぁ、もしジャークシードにシンフォニーライトの力以外効かないというのなら、昨夜の俺は絶体絶命。抵抗むなしく犠牲になっていたのではないだろうか。
ならば、アレは夢だったのか?
そう考えれば、俺が普通に目覚めたのは当たり前の事だ。
けど。
「なんか朝から漲ってるんだよな」
俺、朝は弱い。
弱すぎて灯と夜美子に起こしてもらわないと起きられない。
狙ってやってるけど。
なのに今日はスッキリ目覚め、今にも全力疾走したいくらい元気だ。
「まさかな」
まさか。
昨夜の出来事が本当にあった事で。
あの強キャラを押し返した上に、奴の力を奪えていたとしたら?
「ん」
冴え渡る頭ならば、俺の妄想はレボリューション(意味不明)。
自分の指が伸び、うねうねと動く様を強く思い描けば、それは現実になった。
「うわぁ」
にょろにょる蠢く指が気持ち悪い。
だがしかし。
妄想は加速する。
俺の指はエボリューションし、妄想通りの形となっててらてらとヌメる何かを滴らせる。
Щ( ゜∀。)♂<Fooooooooooooooooooa!
これだ!
これを待っていたのだよ俺は!
ククク、この力さえされば、俺の野望は熱く燃え滾る!
ククク、フハハ、ハァーッハッハッハッ!
──コンコン。
「こいちー、起きてるー?」
「コーちゃん? コーちゃーん」
は!?
しまった。触手を手に入れたことが嬉しすぎて時間が過ぎるのを忘れていた。
いかんな。まだこの力をあの二人に気付かれる訳にはいかない。
まだこの力を習熟していない。それは駄目だ。まずは特訓をして瞬時に変態を完了できるようにしないと。その後はバリエーションを豊富にしないと。そうしてようやく……。
「入るよー」
「おはよー」
いつものように遠慮なく入ってくる二人。
高校の制服姿がいつ見ても眩しい。
「あれ? 起きてる」
「めずらしー」
そうですな。
俺いっつも二人に起こしてもらうからね。
ありがたやありがたや。
「おはよう」
爽やかに挨拶したが、二人とも怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
「! 闇の匂いもふ! ダークシードもふ!」
毛玉ぁぁぁぁぁっ!
ちぃっ! こいつそういった反応を感じ取れるんだった! 俺がモノホーンから奪った力はジャークシード由来だから反応したのか!
ガッデム!
「「セッション!」」
ひぃ! 朝一の変身シーンは短縮版でお送りします!?
「「ユニゾンウェーブ!」」
開幕必殺技ブッパは今回致命傷ー!
ああ、ダークシードの力のみを浄化するビームの中はあったけぇんだなー。
「よかった……よかったぁ」
「大丈夫? どこもおかしくない?」
必殺ビームが消えた後、俺は二人に抱きしめられていた。
俺も、灯も、夜美子も、泣いていた。
「こいちぃ……よかったぁ」
「心配させないでぇ……」
ああ、俺の中の触手が……。
*****
「じょるじょるじょる……じょるー!」
「いくわよムーン!」
「ええ、サン!」
はい。本日も野次馬に混じってシンフォニーライトの応援をしています現場の粕屋虎一です。
本日の敵は、どう見てもイソギンチャクです。
何やらぬめぬめした液体をまき散らしつつ触手をわきわきさせている素敵なフォルムをしています。
どうにかして、アイツから力を奪わなければ。
そして再び触手パワーを我が物に!
「「ユニゾンウェーブ!」」
「じょるー!」
ああ、イソギンジャーク(仮)ーーーーーーーっ!
・登場人物
・粕屋虎一
本作の語り部。えろい高校生。
幼馴染二人を異性として見ていて、歪んだ独占欲を持つ。
体育会系の灯、文系の夜美子と一緒に行動していたせいか運動も勉強もできるスペックを誇るが、いかんせん美少女二人といつもいるためにモテるということもなく、また本人も幼馴染二人以外眼中にない。
ノリと勢いでボスキャラちっくなモノホーンさんの力を奪ってしまった事から、ある意味特殊な人間ではある。
名前の由来はカスやコイツ。
・陽元灯
ポニーテールの似合う活発系美少女。
運動神経抜群でスポーツならなんでもござれ。
サバサバした性格で男女ともに人気は高い。
珍妙な毛玉のせいで変身ヒロイン「シンフォニーライト」の「サンライト」に変身して化け物と戦うことに。
虎一のことは手間のかかる弟のように思っていたが、成長するにつれて逞しくなる彼を徐々に異性として意識しだす。が、虎一がジャークシードに憑りつかれた今回の件で一気に進み、大切な人として意識する。
最近の検索ワードは「拘束」「監禁」「ばれない」。
・月城夜美子
黒髪ロングの深窓の令嬢然とした文系少女。
インドア派だが灯と一緒に行動するためにそこそこ動ける。
誰にでも優しく、母性溢れるせいで男人気は高い。
珍妙な毛玉のせいで変身ヒロイン「シンフォニーライト」の「ムーンライト」に変身して化け物と戦うことに。
虎一のことは自分を引っ張ってくれる兄のように思っていたが、成長するにつれて逞しくなる彼を徐々に異性として意識しだす。が、虎一がジャークシードに憑りつかれた今回の件で一気に進み、大切な人として意識する。
最近の検索ワードは「胃袋を掴む方法」「法律を変える方法」「プラナリア」。
・もっふ
妖精界から人間界に散らばったジャークシードを再封印するためにシンフォニーライトの力の宿ったバトンを持ってやってきた妖精。
ファッキン毛玉。
妖精界に伝わる伝説をまた聞きレベルでしか知っておらず、情報が小出しで間違っている場合が多い。
どうにも人間のことはどうでもいい態度が多く、ジャークシードを封印するためなら被害やら何やらをまったく気にしない。
・ジャークシード
邪悪なる化け物を封じ込めた宝石。
百八個あって様々な化け物が封じられていたが、うっかり妖精のせいで封印が解かれ、人間界に解き放たれた。
基本、人の欲望に引き寄せられ、契約を結ぶことによって力を発揮する。
・バイツジャーク
破壊衝動の権化。硬い装甲となんでも噛み砕く牙、鞭のようにしなる尻尾で装甲車ですら歯が立たない。
それでも特効持ちのシンフォニーライトの攻撃には歯が立たない。
・モノホーンジャーク
ジャークシードに封印されていた化け物の中でもボスクラスの強キャラ。
剛魔将と名乗っており、実力は一、二を争う程強い。戦えば今のシンフォニーライトの二人ならば歯が立たない程。
しかし本作最大の被害者。
シンフォニーライトの力で倒されるのではなく、男子高校生のエロを求める下種パワーによって自らの力を奪われた。
実はしぶとく息を潜め、復活の機会を伺っていたが必殺ビームによって完全消滅。
・イソギンジャーク
素敵フォルムだが有無を言わさず消滅した。
虎一は泣いた。