呪われた崇徳一族
今朝、偶々《たまたま》出会った妖によって俺の運命は大きく変わった。
怪異師と呼ばれる祖である、安倍晴明の末裔一族に口外してはならない史実を聞き、怪異師になるように言われたのだ。
(待て待て! もしかして消えた史実を俺に話した理由って…怪異師に誘い込むためだったのか⁉︎)
「昭仁くーん! 聞こえているかーい? これから頼んだよ!」
「待ってください! 怪異師って人知を超えた力を持ってるんですよね⁉︎ 僕にはそんな力ないですよ!」
「あるさ。君は特別な存在だよ。妖が見えるだけじゃない。その力に気づいていないだけさ」
春晶はそう言って涼月の方をチラッと見たが、涼月は知らない振りをして顔を背けた。
「それに、断れない理由がもう一つあることは察しているだろ? なんたって昭仁君は頭が良いからね」
春晶は笑顔を見せるが、瞳の奥は笑ってなどいなかった。
(クソッ! 完全にはめられた。詐欺の手口じゃねぇか。でもこれを断れば…殺される雰囲気だよな)
諦めたかのような、やるせ無い返答をした。
「わかりましたよ…今日からお願いします」
「いい返事だね! この後は歓迎会に行かないとダメなんだろ? ちょっと涼月と話しがしたいから、昭仁君は外で待っててくれるかな?」
昭仁が客間から出て行くと、春晶は涼月に昭仁の監視を命じた。涼月は監視する理由を答えを出しながら聞いた。
「特別な存在。アイツが崇徳一族って事なのか?」
「あくまでも可能性の話さ。今朝、彼と手を繋ぐ瞬間があった。その時に感じたんだよ。とてつもない憎悪ね。それに藤原性を名乗り、妖が見えるとなると、神力があるか単に霊力に目覚めたかだろう。あとは…呪力の可能性もあるかもね」
春晶が言いたいことは二つあった。一つは天皇の血を引く可能性があるということである。藤原性の多くは、【藤原道長】の子孫と見ていい。そうなれば、天皇との血を受け継ぐ者もどこかに存在していてもおかしくはない。
もう一つは、《《呪われた崇徳一族》》という可能性である。
呪われた崇徳一族とは…?
歴代天皇の中で唯一、怨霊になった人物がいる。それは崇徳天皇である。不遇の中の不遇で人生を終えた人だ。彼は酷く人間を怨み、黄金の天狗となった。多くの人を呪いで殺した後に、自身の呪いを一族に植え付けると姿を消し、その後姿を見た者はいない。崇徳一族は地位を剥奪された上に、呪われた一族として処刑に遭い、根絶やしにされたはずであったが、奇跡的に命からがらに生き延びた者もいた。しかし藤原姓は数多く、崇徳一族が誰かはわからない状態にあった。仮にも昭仁がその一族ならば、三貴子の資格を持っていることになる。
「本当に怪異師にするのか? 崇徳一族と分かった段階で祓うべきじゃ…」
「涼月の意見は一理ある。だが三貴子の資格を持ち合わせているのなら、生かしておく必要はある。大嶽丸はわからないが、酒呑童子と玉藻御前は三貴子の力は必要だ」
「仮にも邪妖怪たちを祓い終わった後は、どうするつもりなんだ?」
「もちろん祓うよ。根絶やしにはしなければいけない存在だ。とりあえずは、邪妖怪を祓うまでは生かしておくつもりさ」
春晶と涼月の認知はここで一致した。
「まだ決まったわけじゃないけどね。もし良かったら友達として接してくれてもいいんだよ」
「断る!」
「じゃあ涼月には、彼の怪異師への育成も頼むよ」
「はっ? それは父の仕事なんじゃ?」
「私も忙しいんだ。涼月だけじゃ心配だから、信頼出来る一尉家には、彼のことは話しておく。雅ちゃんと一緒に面倒を見てくれ」
春晶のお願いに涼月は乗り気では無かったが、当主からの御命令とあらば従う他なかった。黙って客間を出て、昭仁の待つ外へと向かった。
外で待つ昭仁は境内に咲く桜を見ていた。
「ホントにコイツが呪われた崇徳一族の可能性を秘めているのか?」
涼月に気付いた昭仁は手を振ってくる。
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その後、俺と涼月は学校に戻り先輩にたちから履修の方法を教えてもらいながら、履修登録を済ませた。
その後は親睦会も含めて、軽食を取りながらワイワイした。
と言いたいが俺と涼月はクラスで浮いてしまっていて、浮いた者同士が一緒にいるということから、益々話しかけてくる同期はいなかった。
何度か先輩たちが気を使って話しかけてくるが涼月は素っ気無い態度を取ってしまい、警戒されてしまった。
「なぁ涼月…なんでそんな態度を取るんだ?」
「俺の名前を馴れ馴れしく呼ぶな」
(なんだよコイツ? そんなに孤独が好きなのか? もっと楽しく生きたらいいのに。なんでそんなに怪異師にこだわるのか俺にはわからん)
「とにかく一般人とは深い関わりは持つな。後悔することになるぞ」
(何言ってんだ? 俺はまだ怪異師でも無いし一般人だぞ)
涼月は俺に何かを伝えたかったのだろうか? この時の言葉を俺は大した気にも止めはしなかった。
だが言葉の意味を理解するのは、意外にも早いことを俺は未だ知らない。