天皇殺し
四鬼との戦いを終えた面々は、風浪に治療されていた。
「酷い怪我してもーて。見てられへんよ」
「風浪さん、すいませんでした。僕が付いていながら」
「せやけど、尊さんが来てくれてホンマ良かったわ。でないとこの子ら死んでもーとったかもしれへんし」
「それが今回の妖は、他の妖とは少し違うんですね。私も賢人君が居なければ…どうなっていたか」
「そんでその四鬼が、今日見た昭仁君の知り合いの両親やったってことかいな?」
「えぇ。彼がそのように言うてましたからね。間違いないでしょう」
「でも四鬼は藤原千方に従えていた鬼ですよ? なんでそんなのが存在して、ましてや昭仁君の知り合いの両親なんでしょうか?」
「とりあえず、この件に関しては慎重に調べる必要がありますね。明日にでも春晶先生も戻って来るので、相談するしかないですね」
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五月五日。
それは朝早くの出来事であった。御会釈を終え、春晶と時継、雅は真子様に見送られながら皇居を出ようとした時だった。
「うぁぁぁー」
大きな唸り声が皇居内に響いたのだ。
春晶と時継は雅の前後に立って周囲を警戒した。その後ろでは、学史が真子様の警護を務めている。
「一体何が起きたっちゅーねん?」
「時継は雅ちゃんと一緒に居てくれないかな? 私が見てくるよ」
その場を後にした春晶が、声のした現場に到着すると護衛者の複数人が死んでいた。
「真子様を襲いに来たのか⁉︎ しかし犯人はどこへ?」
するとまた別の方から悲鳴が聞こえる。
「もう別の地点へ移動したのか? 早すぎる」
春晶も全力で走ったがその地点には、死体が転がってるだけであった。
「くっそ! 何処へ? とりあえず真子様の所に戻る方がいい」
春晶が戻ろうとした少し前。
殺人犯は既に真子様の居る場所に立っていた。
「よぉ! 新時代の幕開けに女は似合わないよなぁ? その席、俺に譲って貰おうか!」
殺人犯は三十代半ばの男性のようだ。手にはナイフ一本のみを持っている。
「なんやコイツ? 天皇殺しとは世も末になってきとるなぁ」
「おい、オッサン。さっさとそこ退いた方がええぞ。俺の前に立つ者は皆殺しや」
「しょーもない。お前もええ歳こいたオッサンやろ。歴史に残る犯罪者が」
時継と殺人犯のやり取りを後ろで見ていた学史は、異変に気付いていた。その者が異業種であることに。
「真子様、私から離れないように。あの者は何が違います」
「ぜ、全力で私を守りなさいよ!」
時継は術式を発動させ、一本の刀を取り出した。
固有術式・空間格納庫は別次元の空間に十種の物を保管出来る術式。どんな場所からでも出し入れが可能な有能な術式である。
時継の優れた身体能力と相性抜群の固有術式である。
「オッサン、面白いもん見せてくれるな? 手品にしては高度な技や。その手品で俺を殺せんのか⁉︎」
殺人犯は一般人とは思えない速さで、時継に襲いかかった。
手に持つナイフで喉仏を突き刺そうとした。がしかしギリギリで躱すと柄でこめかみ部分をぶん殴った。
「いきなり急所を突いてくるとか、殺す気満々やな。コイツ何者や?」
「オッサン、やるなぁ。部下に欲しいぐらいやぞ」
「お前、何者や? 名乗らんかい!」
「名乗れ? お前誰に向かって物言うとんじゃ! 俺は新皇になる男やぞ! ええわ。当初の目的はそこにおる女天皇を殺して全ての権限を俺が握ることやったが、ここにおる全員…皆殺し確定や。冥土の土産として俺の名前だけ持ってけ。新皇・相馬小次郎を覚えとけ!」
突如、皇居に現れた男。新皇を名乗り、真子様を殺しに来た相馬小次郎を止めることは出来るのだろうか?




