四鬼
突如現れた四体の呪妖怪。狙いは不明だが、京都に向かって来ているのは確かであった。
「速やかに対処しないといけないね」
「そうですね。こんなところで戦ったら被害が出ますからね」
「お、俺にも出来るでしょうか?」
昭仁は声は震えていた。
「どうだろうね。昭仁君にどれだけの力があるかわからないし、それでもやるっめ決めたんだよね?」
「はい…」
「安心しろ。お前にまだ力がないのは知ってる。安全は俺が守ってやる。それに陽や凪、波もいる」
「涼月…。ごめん、弱気になって。やるしかないんだよな!」
「あぁ。妖は祓わないとダメだからな」
昭仁は周りを見渡す。ハッキリ言ってここにいる怪異師は、涼月以外知らない面々だ。
陽も九條兄妹も賢人も無言で頷いてくれる。信頼関係があるほどの関わりはまだないが、嬉しい気持ちになっていた。
(やるしかないんだよな。みんなの迷惑にならないようにしないと)
そして昭仁たち六人は走り出した。しばらく走ると辺りは田園が広がる田舎へとやってきた。
「もうすぐ来るよ。かなり近づいてきた」
六人は立ち止まって辺りを見回した。
すると突如、賢人が吹き飛ばされた。何者かに殴られた衝撃と音が聞こえた。
「賢人さん⁉︎ 大丈夫ですか? 何が起きたんだ?」
昭仁は賢人に駆け寄ろうとしたが、『こっちに来てはダメだ!』だと賢人に警告されると、そのまま暗闇の中へと姿を消してしまった。
「一体、何が起きているんだよ⁉︎」
「気をつけろ。既に呪妖怪が迫っていたんだ。なんて速さだ」
涼月は自然と昭仁の前に立ち警戒を強めた。隣りでは陽も戦闘体勢に取っていた。凪は刀を抜き、波は弓を構えている。
するとキラーンと光る何が猪突猛進で凪と波に向かって来る。咄嗟に放った矢は簡単に弾き返されてしまった。一瞬ではあるが鬼が見えた。鬼は凪と波に掴み、引きずりながら暗闇の中へと消えた。
「凪、波!」
「気をつけろ陽。まだ二体いるぞ」
涼月は警戒するように命じる。暗闇の奥の方からドドドッと音を立てながら津波が押し寄せてくる。涼月はすぐさま霊壁を張り、津波を防いで昭仁を守った。しかし、陽は反応が遅れたことで流されてしまう。
「お兄ちゃん!」
手を伸ばすが、流水が速すぎて手を掴むことが出来なかった。陽も同じく暗闇の中へと姿を消した。
「みんなバラバラになっちゃったぞ…」
「おい、気を抜くなよ。まだ一体残ってるはずだ」
涼月と昭仁に向かって鎌鼬が飛んでくる。涼月は鎌鼬を躱したが、昭仁は躱すのが遅れて頬を掠めてしまった。傷口からゆっくりと血が流れてくる。
「何者だ⁉︎ 隠れてないで出てこい」
暗闇の中から、出てきたのは緑色をした一体の鬼であった。その気からは強い呪力を感じ取れる。
「上手く分断することに成功したか」
「チッ。やっぱり呪妖怪か。最近沸きすぎだな。お前たちは何なんだ?」
「何だと聞かれたら答えてあげるのが世の情け。ということだな。いいだろう! 教えてやる。耳の穴をかっぽじって聞け! 我々は四鬼‼︎ 藤原千方様に使える鬼! そして風を操る鬼こそが風鬼様だ!」
昭仁は四鬼と聞いて、太平記で読んだ記事を思い出した。
【四鬼】
様々な説があるが、中でも『太平記』第一六巻『日本朝敵事』の記事が最も有名である。
平安時代、豪族であった【藤原千方】は、四人の鬼を従えていた。どんな武器も弾き返してしまう堅い体を持つ【金鬼】、強風を繰り出して敵を吹き飛ばす【風鬼】、如何なる場所でも洪水を起こして敵を溺れさせる【水鬼】、気配を消して敵に奇襲をかける【隠形鬼】である。
そうなると、流された陽は水鬼、攻撃を跳ね返していた鬼に拐われた九條兄妹は金鬼、見えない攻撃を受けた賢人は隠形鬼と戦ってることになる。
(いやおかしい。藤原千方は架空の人物で存在はしてないはず。仮にその説が覆ったとしても1200年も前に死んでるんだぞ。どうしてそんなのが?)
「涼月、不可解なことだらけだぞ」
「お前の言いたいことは後だ。どうにせよ祓うことが先決。油断するな」
昭仁に緊張が走る。せめて涼月の邪魔だけにはならないようにと。
「さて、一戦やろうじゃないか!」
それぞれの戦いが始まろうとしていた。




