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怪異師伝奇  作者: 荒巻一
第一章【三部 怪異師への決意】
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不穏な空気

 九條くじょう家を出た双方の夫妻に風浪ふなみは心配をしていた。


昭仁あきひと君、私はあんたが悪いなんておもてへんで。でもな、先の夫妻…心配やわ。酷い顔しとった。あんな強い負の感情見るんは、いつ振りやろか?」


「…強い負の感情。一体どうなるんですか?」


 強い負の感情を持つとあやかしが寄り付くようになる。そして負のエネルギーを糧にしてより強いあやかしが誕生する。その際、人間は生気を貪られ死ぬ。ある意味その者があやかしになるようなものだ。


「死ぬのも時間の問題やろなぁ」


「そんな…」


「とにかく落ち着きさえしたら、酷いことにはならんとは思てるけど…。祈るしかあらへんね」


(どうして…? 何でこうなったんだ? 俺が怪異師になってから運命の歯車が狂ったのか。誰が、誰が悪いだ。俺自身が呪われているのか? 人を傷つけることが無かったとは言えない。俺が死ねば…俺が死ねばそれで解決するのか⁉︎)


 無言で色々考えてはいるが、様子は明らかにおかしい。焦点が合っていない。

 涼月りょうき昭仁あきひとが何を考えているのか憶測出来ていた。


「くだらないこと考えているだろ。目を覚ませ! 何で怪異師に誘ったか教えてやるよ。お前には、父の悲願である三大悪妖怪を倒す力があるかもしれないからだ。あやかしから人々を守れる力があるんだよ」


(俺にそんな力が…。いやあるはずない。だとしたら何故、和真かずま佳純かすみを助けず逃げた。それがいい証拠だ)


「そんな力あるわけないだろ…」


 弱音を吐く昭仁あきひと涼月りょうきは苛立ちを感じ、遂に握り締めた拳で顔面を殴った。


「いい加減にしやがれ! お前がどうこうなんか関係ない。それでいいのかよ! お前の友達は…何で死んだんだ! お前が生きてる理由があるのなら立てよ。立ち向かえよ!」


(立ち向かう。あやかしにか…。そうだ。和真かずま佳純かすみあやかしに殺された。ここで逃げたら今度は、二人のたましいに俺は呪われる気がする。もう二人のたましいあやかしにはさせない!)


 昭仁あきひとはキッと目に力を入れた。


涼月りょうき、やってみせるよ!」


「とにかく、お前の償いはこれからだ。俺も手は貸す。無様な格好を見せても這いつくばれ」

(だが、コイツが過去に起こした事件とは何だ? それに呪われた人物だとさっきの人も言っていた。やはり崇徳一族である可能性が高いってことか)


 こうして、俺は涼月りょうき叱咤しったされ、安倍家へと連れていかれた。

 それは正午の出来事であった。


       ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎


 その日の夜—。

 京都の空は不吉な雲に覆われていた。分厚く波打つ形をした雲に、妙な明るさが残る夜であった。体にビリビリと不気味な気配を感じる。

 すぐさま異変に気付いた涼月りょうき九條くじょう家へと連絡をいれた。電話をしてるいる涼月りょうきに近づく影がある。


「お兄ちゃん…怖いよ」


 ひなただ。

 涼月りょうきの服をギュッと掴んで怯えていた。と思いたいが、彼女はこれを好機と思い涼月りょうきにくっ付いているだけだ。

 いつ如何なるときでも、兄に甘えたいが優先される。それがひなただ。


(へへーん。今はみやびちゃんがいないからね。お兄ちゃんは私の物よ。あーお兄ちゃんの匂い好き!)


 一方、九條くじょう家では怪我をしたなぎを引き止めるふなみの姿があった。


なぎ! あんたは行ってはあきません。そんな身体で何が出来ますの⁉︎」


「まぁまぁ、風浪ふなみさん。僕となみちゃんでなぎ君は見ておきますから。なぎ君の実力は確かなものです。戦力としては欠かせないんですよ」


「せや言うても…。まだ怪我も完治してるわけやあらへんし。やっぱり行かん方がええ!」


「母さん、行かせてくれへんやろか。俺だけ黙って待ってるなんてこと出来へん!」


「……仕方ないな。これも父さんの血を譲り受け取る証拠や。これだけ持っていき」


 風浪ふなみが渡したのは、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまであった。


「こんなことに使つこたらアカンのはわかっとるけど、月詠ツクヨミ様の御加護があらんことを」


「母さん、堪忍な。絶対生きて帰ってくるさかい」


 なぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの首にぶら下げて出発した。晴明神社に向かうと既に涼月りょうきたちが外で待っていた。そのには昭仁あきひとの姿もある。


涼月りょうき兄ちゃん、遅れてもた。堪忍して」


なぎ⁉︎ もう大丈夫なのか?」


「こんな状況で指咥えて待っとるのは性に合わんってことやで」


なぎ君のことは心配いらないよ。なみちゃんと二人で見てるからさ」


賢人けんとさん。本当に手伝ってくれるんですか?」


 涼月りょうきは怖い顔で睨んだ。流石の賢人けんともここまでの嫌われように苦笑いするしかなかった。


「口では信用得るのは難しいからね。働きで示すしかないと思ってるよ。同業者として別々の道を進むのはよくないからね」


 涼月りょうきは何も言わず黙って気持ちを飲みこむしかなかった。


「それより、あやかしは? 俺は何をすればいいの?」


 昭仁あきひとは不安の余りにオドオドするしか出来なかった。


「僕の力であやかしを探してみるよ」


 賢人けんとは一度目を瞑ってから、目を大きく見開いた。相伝術式の一種の技で数キロ離れた呪力も識別することが出来る。


「大きな呪力を持ったあやかしが四体こちらに向かって来ている。しかも…異常な速さでこちらに来ている」

 

「じゃ、じゃあこの異様な雰囲気もその四体のあやかしが原因なんですか?」


「だろうね。かなり強いよ」


「とにかくここに居ても意味はない。俺たちも行くぞ!」


 昭仁あきひとたちは、向かってくるあやかしを迎え討つこととなる。

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