五摂家筆頭・小野江家
東京都。
現在の日本の首都。
超高速ビルに色鮮やかなネオンが光る街でありながら、古き時代を感じられる寺院も数多くある、古き歴史と未来を融合したような場所である。
『東京都千代田区千代田1—1』
ここは皇居。天皇の住まいがある。
幕府軍は明治新政府軍との戦いに敗れ、江戸城を無血開城し、京都御所に住んでいた明治天皇が東京に移る際に皇居と治定した。
それは明治元年(1868年)の出来事であり、その日から『東京』と『皇居』が誕生した。
時継は波との通話を切ると不安そうな表情をしていた。自分の子どもたちが、大嶽丸と対峙して命があっただけでもよかったが、万が一間違えば死んでいたかもしれない。
一方の春晶は、昭仁の心配をしていた。
「いやー。これは大変ですね」
物陰から一人の中年男性が姿を現す。
その身体はスーツ姿からでもわかるぐらいに引き締まった大きな肉体をしている。春晶は呆れた表情をしながら、皮肉な発言をした。
「相変わらずの地獄耳だね。小野江学史議員」
【小野江学史】
小野江家の現当主にして国会議員であり、次期総理大臣の最有力候補である。彼は研ぎ澄まされた霊力を持ち、霊力によって身体能力や動体視力が異常な発達を遂げ、化物染みた存在である。故に霊力無しでも強い。
小野江家は五摂家筆頭であり、安倍家の右腕として活躍した怪異師の一族である。その実力は安倍家と同等、もしくはそれ以上の力を持っていると噂されている。
相伝術式では先見之明と呼ばれる術式を持っており、相手の心を読みことでき、どんな攻撃にも事前に対応ができる。その優れた能力から天皇の護衛を代々務めている。
「地獄耳だなんて酷いこと言いますね。声が大きいんですよ。私の耳に何でも入ってきてしまうのはご存知のはずよ。それにその呼び名はやめてください。我々の師匠なのですから、春晶先生」
嫌みに聞こえるように、互いの名前を呼び合う。年齢でいうと学史の方が約一回り上であるが、師弟関係から敬語を使っている。
実は言うと小野江家は、他の怪異師とは少し違う。独自に行動することが許されており、安倍家やその他の五摂家と連携することはない。また近衛師団と呼ばれる怪異師集団を持ち合わせている。これらは全て天皇から許可を得てのものである。故に春晶ですら手に負えない状態なのである。
「なら話す必要はないね。それとも何か用事でもあるのかい?」
「厳しいねぇ。私を除け者扱いにして。同じ怪異師というのに」
「何を言うとんねん! 勝手なことばっかりしよてからに。女系天皇案も提出したのは学史はんやろ⁉︎ 一番手出したらアカンところに手出して…何考えとる!」
「まぁまぁ、そんなに怒らなくても。世間も周りの議員たちも、そうでもしないと皇族の継承は厳しいんですよ。それに春晶先生なら三大悪妖怪も倒せるでしょう」
「学史議員、私は君の判断を許す気はない。だが、時が来れば手を貸して貰うよ」
「わかってますよ。それに我々は天皇陛下を御守りするのが責務。命に変えてでも守ってみせますよ。時が来れば必ず。時継もその辺は理解してもらわないと」
「ちっ…」
「それで今回は大嶽丸が相手ですか? 遂にこの時が来たんですね。なら息子を派遣しますよ」
「賢人君を?」
「えぇ。丁度、奈良に滞在してますから直ぐに京都まで行けますよ。私の方から内容は説明しておきますよ」
「待て。それと別の話もある」
「大丈夫ですよ。大嶽丸のことは口が裂けても陛下には言えない内容です。先ずは、春晶先生の中でどうにかしたいということなら内緒にしておきますよ」
学史はそう言って姿を消した。
「春晶さん、宜しいですか? 賢人言うても小野江家やし」
「大丈夫だろう。賢人君は、我々と仲良くしたいと思っている。それに彼の力は頼りになる。ここは素直に受け入れよう」
「春晶さんが言うなら従うまでのこと」
「とにかく、大嶽丸を祓うことが最優先される。鬼神ではあるが、祓えるとしたら一番可能性がありそうだな」
春晶は自信ありげな発言をして笑みを溢していた。
「大嶽丸の相手は私がするよ。その他のバックアップを頼みたいね」
「一尉家や二城家、鷹士家に連絡はしておきます」
「一尉家は、雅ちゃんがいるから話しておくよ。時継は二城家と鷹士家に連絡しておいてくれ」
遂に復活した大嶽丸に挑む準備を進めていくのであった。




