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怪異師伝奇  作者: 荒巻一
第一章【二部 地獄の門】
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式神使いの女

 なぎなみは必死だった。

 高校生の若輩者じゃくはいものがいくら束になっても、大嶽丸おおたけまるには歯が立たないからである。


「アカン。なんで父さんも春晶はるあきさんもおらん時に復活しよったんや」


涼月りょうきさんやみやびさんもおらんし」


 最強怪異師である春晶はるあきは東京に出張。父・時継ときつぐも同じであった。頼れる先輩怪異師も同伴で東京に…。

 完全に頼れる人がいない。


「死にとーないが…俺たちじゃ…ハハ…敵いそうにないんかぁ」


「そんなこと言わんとってなぎ! 死ぬなんて許さへんよ」


「そうよ! ひながいるじゃない!」


 どこからか別の女性の声が聞こえてくる。

 なぎなみは声のする方へ目を向けると、ビルの上に立っていたのは、安倍家の長女であるひなたであった。

 

「闇ある所に光あり! 闇を切り裂く存在、安倍陽あべひなた、ここに見参!」


「ひ、ひなた⁉︎ どないしてここに」


「ヒーローは遅れてやってくるのよ。それに仲間であるなぎなみのピンチを華麗に救うのがひなって女でしょ!」


 この女、安倍陽あべひなた涼月りょうきの妹である。ひなたの厨二病はまたの機会に説明するとしよう。


 ひなたはポケットから紙を取り出す。


「ここからはひなの時間よ。我が最強にして可憐キュートな眷属! 天将招来てんしょうしょうらい玄武げんぶ、召喚!」


 玄武げんぶ。その名前から想像されるのは四聖獣である亀のようなもの。だがその姿はねずみである。どこにでも居そうなねずみにしか見えない。

 紙切れから、十センチ程の一匹の可愛い白ねずみが召喚された。チューチューと鳴きながら、首を振り辺りをキョロキョロと見渡している。頼りになるようには見えない。


「あー玄武げんぶ! 本当に可愛いんだから。よしアイツをやっつけて!」


 ひなたの指示に従い、トコトコと走り出すが一瞬で踏み潰されてしまった。なんとも非力で弱い式神なのか。

 

「フッフッフッ…潰したわね! さぁここから玄武げんぶが本領発揮するんだから!」


 踏み潰されたはずの玄武げんぶは二匹に増えていた。大嶽丸おおたけまるは、増えた玄武げんぶを次々に踏み潰してゆくが、二匹が四匹に。四匹が八匹に…。どんどん数が増えてゆくではないか。


「これが玄武げんぶが持つ能力。潰した分だけ増えていく。ねずみの繁殖を舐めんじゃないわよ!」


 大量に増えた玄武げんぶ大嶽丸おおたけまるに次々に張り付き、噛みついて身体に覆われている呪力を喰いちぎっていく。


「ぬぅぅぅぅ。矢の次は鼠か! 鬱陶しいわ! 潰して増えるのなら雷に撃たれて焦がれるがよい!」


 黒雲から雷電風雨が降り注ぎ、玄武げんぶは雷に撃たれると消し炭となって次々に数を減らし消滅してしまった。


「あぁー! 可愛い玄武げんぶたちが…」


 玄武げんぶは餅のような体質を持っていて、潰されることで繁殖するのだが、燃やされたりすると消滅してしまう。


「いや、ひなたの式神は十分やったで。見てみ、呪力は弱なってる。もっぺんやってみたるさかいな!」


 血だらけになった身体に鞭を打って、なぎは再び刀を強く握り構えをとった。


「居合一陣…『夕凪ゆうなぎ!』」

 

 夕凪ゆうなぎは、霊気の斬撃波であるが見えないため、相手に気付かれない技である。

 なみひなたの攻撃によって呪力の鎧を剥がされた大嶽丸おおたけまるの身体になぎの一撃が決まる。

 見えないため、身体に当たって始めて攻撃されていることに気付いた大嶽丸おおたけまる。斬られた部分からは白い煙が上がる。呪力の破壊に成功して、一部を祓うことに成功した証であった。だが満身創痍のなぎにとって今、居合技を使うのは大きな代償があった。


「がはっ…」


なぎ!」


 なみは吐血するなぎの身を案じてギュッと抱きしめる。

 

「これ以上はアカン。なぎが死んでまう」


「やけどな大嶽丸おおたけまるは、まだ…祓えきれてへん。せめて退かせんとアカン」


「何勘違いしてるの⁉︎ まだひな戦闘局面バトルフェイズは終了してないわ!」


 ひなたは再び紙を取り出す。

 

天将招来てんしょうしょうらい! 騰蛇とうしゃ、召喚!」


 騰蛇とうしゃ。それは炎を纏った蛇。


「紅蓮の炎に抱かれて死ね!」


 騰蛇とうしゃは大きな身体をウネらせて地面を滑るように進む。通った道には焼けた跡が残る程である。大嶽丸おおたけまるの身体に巻き付き、焼き締め殺そうとする。

 騰蛇とうしゃの霊力と大嶽丸おおたけまるの呪力が激しくぶつかり合う。

 だが大嶽丸おおたけまるが一筋縄でいかない存在であることは、誰も知っていた。


「ぬぅぅぅぅ!」


 大嶽丸おおたけまるが呪力を爆破させると締め付けていた騰蛇とうしゃは、パンッ!と音を立てて破裂して消えてしまった。


「甘く見ておったわ。呪力が鈍っておる上に我の知らぬ不思議な力を使う人間がいるとは。この傷も癒さねばならぬ。一度退くとしよう。命拾いしたな、不思議な力を使う若造共! 次はこうはいかんぞ」


 大嶽丸おおたけまるは、黒雲に乗り、東の方角へと去ってしまった。大嶽丸おおたけまるが去ったことで、三人の緊張の糸がプツンと途切れた。ひなたはヘタり尽くし、なぎは意識を失った。なみは未だに恐怖から抜け出せず、意識のないなぎをギュッと抱きしめていた。

 そしてずっと俯いたまま動けないでいる昭仁あきひとも命拾いしていた。だが心のダメージは大きく、廃人化としてしまっていた。

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