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怪異師伝奇  作者: 荒巻一
第一章【二部 地獄の門】
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双子の怪異師

 昭仁あきひと大嶽丸おおたけまると出会う少し前——。

 京都御苑内に邸宅を構える怪異師がいた。

 九條くじょう家である。

 九條くじょう家は五摂家の中でも珍しい怪異師で相伝術式がなく、そのため固有術式が無ければ怪異師の中でも地の底レベル。そのような者は過去には多く存在していた。

 しかし、稀に天賦と呼ばれる能力を持つ存在が誕生することもある。天賦は身体能力を劇的に強化する変わった力である。そんな特殊な能力と霊力を宿した武具を使って一番槍としてあやかし狩りを務めている。

 そして先日、皇居から持ち運ばれた八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの守護を任されている怪異師でもある。


       ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎


 5月2日-19時00分-

 平安神宮の奥院に保管されている八尺瓊勾玉やさかにのまがたまから、大量の妖気が溢れ始める。

 妖気は筋骨隆々な腕を型取り、外側から硬く閉ざされている扉を無理矢理こじ開けて凄まじい勢いで外へと飛び出して行った。

 刹那な出来事ではあったが、平安神宮方面から強い妖気を感じ取った二人の怪異師がいた。


 長安高校に通う三年の双子兄妹きょうだいである、兄の【九條くじょうなぎ】と妹の【九條くじょうなみ】である。


なみ、今のは…」


なぎも? ありえへんくらい強い妖気やったよ。まさか、封印解けてもた⁉︎」


「そりゃわからへんけど、ただ父さんらが居てらへんときに。最悪や。とにかく俺は確認してくるさかい、父さんに連絡してみてくれへんか」


「うん! わかった」


 なぎは愛用の刀を握り締めて、家を慌ただしく飛び出した。

 平安神宮に到着し、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまが保管されている奥院へと向かう。そこで見たものは固く閉ざされた扉ではなく、風に揺れる開かれた扉であった。

 残された八尺瓊勾玉やさかにのまがたまからは妖気は流れておらず、ただの石ころに見えてしまう。八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを手に取り、服の内ポケットの中へ入れて自宅へと戻った。


「おかえり、なぎ! どないなっとった?」


「解かれてもーてた。昨日、封印の儀式したところなはずやのに。それより父さんとは連絡は繋がったんか?」


「いや、何度も繋いでみたけど出ーへん!」


 なぎは腕時計を確認した。

 -19時45分-

 この時間だと晩餐をしている時間かもしれない。


「とにかくや、大嶽丸おおたけまるがホンマに復活しとったら危険や! それに一般人が巻き込まれてもーてたら…最悪。なみ、急ぐで!」


「待ってーな。大嶽丸おおたけるに敵うわけないやんか! やめときーな。それになぎはウチらからしたら一般人やん。術式ないのにどないして戦うつもりよ」


「アホ! 被害は最小限に抑えなヤバいやろ!」


 怯えるなみを説得して二人は、強大な妖気を感じる方角へと急ぎ向かった。

 現場に到着しそこで目にしたのは、地獄を見た後の昭仁あきひとと死んだ和真かずま佳純かすみから流れ出た大量の血、そして巨大な鬼の姿があった。

 二人は鬼がすぐに大嶽丸おおたけまるだとわかった。今までにないほどの脅威を目の前にして脚がピタリと止まった。


「おいおい、なんていう威圧感や。復活したところやさか大した呪力を持ってへんと期待しとったけど…半端やないな。ほんだら、なみはそこの男の人を避難させてくれな!」


「それはえーけど、その後はどないすんのさ?」


「その後? そんなもんは考えとらへん。やれることだけのことはしてみるってことや!」


 なぎは鞘から刀を抜いて、大嶽丸おおたけまるとの間合いを一気に詰めて斬りかかる。


 バキーーッン!

 なぎの一太刀が大嶽丸おおたけまるの腹を斬りつけてみるが、擦り傷一つついてない。


「呪力の鎧か⁉︎ 硬すぎるやろ!」


「貴様らは何者だ? 三貴子さんきし…いや、そこまでの力はない」


 大嶽丸おおたけまるの意識をなぎに向けている間になみ昭仁あきひとへと駆け寄った。


「大丈夫? ここは危ないから後ろに下がっててくれやんやろか?」


 なみの問いかけに昭仁あきひとは答えることはなかった。聞こえているのかと俯いた顔を覗き込むと昭仁あきひとも死を受け入れる直前の佳純かすみのように、不気味な笑みを浮かべていた。


「聞いとる? ここから離れんとウチらも危ないんやて! なぁ聞こえとる⁉︎」


 だが、なみの声が届くことはなかった。

 

「ちょうど良いわ。長らく閉じ込められて鬱憤を晴らすのに暴れたいところであったからな! 我を楽しませてみせろ!」


 大嶽丸おおたけまるは氷の剣を作り出し、氷剣をなぎに振るう。刀と剣がぶつかり合う時に霊力の白い火花が飛び散っているのが見えていた。

 なぎの霊力が劣っている証拠だ。なぎは、後退してなみに助力を願うしかなかった。

 

「どないしとんねん⁉︎ はよ移動ささんかい!」


「そんなん言うけど、廃人になって動いてくれやんの!」


「クソっ! こんな時に。ほな、助けるってなると…やっぱりやるしかあらへんわけか」


「やるしかないって…大嶽丸おおたけまるを祓うつもりなん⁉︎ 無理に決まってるやん!」


「復活したばかりや、妖気が完全やあらへんのは確かや。俺が邪妖怪と戦って立てとることが何よりの証拠」


「そやけど。でもなぎの攻撃効いてへんやんか。復活したばっかり言うけど…。どない考えても無理やて」


「それ言うな。アイツ、呪力の鎧を纏っとんねん。それも飛びっきり硬いやつや。おかげで俺の一太刀が全く入りよらへんだけや。せやから、まずは妖気の鎧をへつるしかあらへん」


「ってことはウチの出番ってことか」


「せや。退魔の矢で霊力流し込めるやろ。鎧さえへつれたら、俺の一太刀も入るかもしれへん!」


「任し! でも時間くれんとあかんよ」


 なみは弓を得意とし、あやかしを祓っている。なみは固有術式に貫通術式を持っており、退魔の矢と呼ばれる一撃を持っている。

 なみは、霊力で矢を作り、弦を力いっぱい引き絞った。精神統一したなみからは凄まじい気迫を感じる。退魔の矢を放つまでにはそれなりの時間がかかるため、連続して撃つのは難しい。

 放った矢は一直線に進み、大嶽丸おおたけまるの腹部に突き刺さった。貫通こそしなかったものの霊力が大嶽丸おおたけまるを纏う呪力の鎧に流れ込み剥がれ落ちてくる。なみの攻撃が大嶽丸おおたけまるの妖気を削る。


「ぬぅぅぅぅ。鬱陶しい攻撃だ」


「ええぞ! 効いてるやんけ! これなら喰らわすことも出来るんちゃうかぁ!」


 なぎは地面を蹴って大嶽丸おおたけまるの腹下に潜り込むように飛び付き、刀を突き刺した。


 ——グチャ。


 だが、刃が腹部に刺さった深さは数センチ。大したダメージになっていない。


「生身自体が呪力の塊やったってことかいな⁉︎」


なぎ! 危ない!」


 大嶽丸おおたけまるの腹に刺さった刀は抜けず、握りしめたまま動けないでいたなぎに巨大な拳が飛んでくる。


 ドムッ!


「かはぁ——ッ!」


 なぎは吹き飛ばされ、ビルの壁に打ち付けられる。


「刀も返してやるわ!」


 腹に刺さった刀を抜いて、なぎの顔に向かって一直線に投げると右頬を刃が掠める。


「…バケモンやないか。呪力量は呪妖怪と同等なはずやのに…」


 壁に突き刺さった刀を抜いて、杖代わりにしながらヨロヨロと立ち上がる。

 力を取り戻してはいないとはいえ、圧倒的な力の前に立たされたなぎなみ大嶽丸おおたけまるに対抗する術はあるのだろうか?

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