怪異師の才能
「クソッ!」
昭仁は両拳で机を強く叩いた。
(何故だ⁉︎ こんな男のどこに惚れた? 人と接することを嫌うこの男に!)
「雅姉さん。コイツは無視していい。それより父からは聞いてるよね?」
「えっ? あー聞いてるわ。涼月が連れてくる男の子を怪異師として一緒に教育して欲しいって」
涼月は雅と一緒に怪異師になる為の説明をしたいのだが、昭仁にとって怪異師より何故、涼月と雅が恋人関係にあるのかを知りたくて仕方なかった。
「昭仁君、あなたが聞きたいことは後日聞いてあげるから、今は私たちの話を聞いてくれる?」
昭仁は、今日から下宿先には帰らず、一尉家に住み込み怪異師になるための修業することになっている。
その手伝いをするのが涼月と雅である。涼月からは体術を学び、雅からは霊力と霊術の方法を学ぶ約束になっていた。
怪異師は霊力と霊術を使って戦う。反対に妖は呪力と妖術を使って戦う。
「基本となる霊力について説明するわね」
霊力とは、人間に眠る超能力で誰もが持っている力。一般人でもごく稀に目覚める者がおり、イタコや霊媒師などを生業としている。霊力は別名・第六感とも呼ばれている。この力を使って妖を隠密に祓っているのが怪異師だ。
「簡単に言えば、人気漫画のドラゴンボールの世界みたいなもんだ」
「かめはめ波みたいなことができるのか?」
「それは出来ないが、霊壁や身体強化などは霊術によって生み出されるものだ」
「この霊術が使えることで怪異師として認めてもらえるのよ。まずは霊壁が作れるようになることが第一歩ね!」
(そんな簡単に出来るものでもないと思うが…)
「あとは、妖と戦う際に重要になるのが霊力の質と量ね。磨き上げられた霊力と莫大な霊力があれば、霊壁も身体強化も強化が可能よ。と言っても量に関しては生まれながらに決まってるから」
「つてことは涼月が妖に負けたのって…」
「あぁそうだよ。妖の方が呪力が強かった。それだけだ。故に霊壁も式神も崩されたんだよ。文句あるか」
涼月は昭仁の顔を睨んだ。
「ないないない! 全くないです!」
(こえー。コイツ絶対拗ねてるよ。何されるかわからないぞ)
「じゃあ昭仁君、早速なんだけどちょっと試してみようか?」
「試す? 何をですか?」
「もちろん才能があるかどうかをね」
霊力を使うには、身に宿る不思議な力を感じる取ること。集中力を非常に有するため、身体に負担がかかる。これがなかなか難しく、簡単に出来るものではない。
だが、昭仁は簡単に使えることが出来た。それは呪われた一族であるからなのか、三貴子の資格があるのかは定かではなかった。
「昭仁君、凄いわ! 霊力を感じ取れてる! 才能あるわよ」
(俺にこんな才能があったのか? でも、この感覚はどこかで使った記憶が俺にはある。とても古い記憶で思い出せないが、何処かで…)
「じゃあそのまま霊力の出力を上げて、霊壁を作ってみましょ。霊力の制御をするのはもっと難しいわ。霊術の初歩よ」
雅に言われるがままに実行してみるが。
(なんだこれは? 霊力の出力を上げた瞬間…身体…身体から何が奪われていく感覚…いや倦怠感だ。この怠さは寝込んだときに起こる感覚と同じだ。それに霊力が思うように動いてくれない。これじゃあ霊壁は作れないぞ?)
徐々に身体が重たくなる感覚と共に昭仁は力尽きた。額からは冷や汗が吹き出る。
「アハハ。霊術はまだまだね。でも霊力を感じ取って多少制御出来るだけでも十分凄いわ! 私は七歳の頃から始めたけど、霊力を感じ取れるようになるまでに二年かかっちゃったから…」
「父が見込んだだけはあるのか」
(相変わらず涼月は俺に手厳しい。コイツに体術を学ぶとなるとある意味死を覚悟してた方がいいかもな…)
「雅さん、聞きたいことがあります。
術式はどうやって使えるようになるんですか?」
「残念だけど昭仁君には使えないかもしれないわね。私たちみたいに相伝術式はないし、固有術式があるかはわからないのよ」
「なんですか? その相伝術式と固有術式って?」
「相伝術式っていうのは、家系代々に伝わる術式のことだ。安倍家は天将招来が相伝術式になる。これは晴明様が十二支神と契約を結んで使えるようになった術式で姿と名前が一致しないものもあるが、気にしなくていい」
「私たち一尉家の相伝術式は藤花爛漫っていうの」
藤花爛漫には六つの式が存在する。
その中でも最高位に位置するのが、睦式である八重黒龍だ。藤花爛漫は式神の下位互換のようなもので、実際に生きているわけではない。
そして、雅はまだ藤花爛漫を完全に扱えるわけではない。
「藤花爛漫の元は天将招来から編み出された術式なのよ」
(優秀な一族なんだな。でも龍は一瞬で消えてしまった。式神みたいに長くは出てこれないのか?)
「何か言いたそうな顔してるわね。私の術式もまだまだなの。だから八重黒龍は未完成なの。それに私は弁護士になりたいから怪異師の修行なんて本当はしたくないのよ」
「それでも雅姉さんは凄いよ。この歳で未完成ながらも藤花爛漫が一通り使えるんだから」
(式神を使う涼月が言っても、何の慰めにもなってないように聞こえるぞ)
「それで固有術式っていうのは?」
「固有術式は生まれながらにして持ってる術式よ。私も実は一つだけ持ってるの。固有術式は一個だけとは限らないわ」
「複数の術式を持っている怪異師も存在する。だが、固有術式は持ってるだけでも珍しい」
「涼月は持ってないのか?」
「俺も一つ持ってる」
「なんだよ、この優秀な集まりは…。怪異師でもそれぞれ違うのは分かったけど俺に何の力があって怪異師になるように勧めたのか全然わからないな」
昭仁の言葉に二人は顔を見合わせた。三貴子の可能性を秘めているだけのこと。仮にもそうなら、その力は霊力を遥かに上回る。
そして崇徳一族である可能性があること昭仁は知らない。
「とにかく、昭仁君! これから宜しくね!」




