3:主人公誕生!
エミリアと儀式を行った次の日、俺たちはさっそく権力を高めるための行動に出た。
まずは最底辺の評価をどうにかしなくてはならない。
廊下を歩いている今だって、俺のほうを嘲笑の目で見てくる連中がいるからな。
それだけダイクン家というのは貴族社会でも馬鹿にされているのだ。
――そうして俺が中庭に辿り着いたところで作戦開始だ。
取り巻きに囲まれながら座っていたエミリアが、ふいに側にいた女生徒の髪を掴み上げた。
「ッ!? い、痛いですエミリア様ッ!?」
「あらごめんなさい。アンタの髪の毛がちょっと乱れているようだったから、直そうと思ったんだけどね~」
そう言ってグイグイと髪を引っ張り続けるエミリア。
しかし当の女生徒は涙目になるだけで決して不満の声をあげず、中庭にいる他の生徒たちも気まずそうに顔を逸らした。
……これが『エミリア』という女なのだ。
彼女には誰も逆らえない。公爵家という国内トップの家柄を持つ上、一流魔法使いの三十倍の魔力を持っているという大天才なのだから。逆らえば断罪か消し炭だ。
それゆえに幼い頃からワガママの限りを尽くし、パーティーを開いては他の子供たちをいじめていたんだとか。
本当に最悪の女だな……。
だけど、それも今日までだ。
俺はエミリアの側に無言で近寄ると、
「彼女から手を離せ、外道」
――その頬をパァンッと叩いた。
中庭に肉を打つ音が響き、生徒たちが一斉に静まり返る。
そして次の瞬間、
「わっ……わああああああああーーーーーッ!? なにやってんだよ底辺貴族ッ!?」
「おまっ、相手はあのエミリア様だぞッ!? 殺されるぞーーー!」
悲鳴じみた声が響き渡る。
誰もが「何やってんだ馬鹿ッ!?」「狂ったのか!」と叫び散らし、憩いの場である中庭はあっという間に騒がしくなった。
――まぁここまでは脚本通りなんだけどな。
俺は凛とした表情を保ちながらエミリアと目を合わせた。
すると彼女は一瞬頷き、瞬く間に表情を怒りで歪めはじめる。
「なっ……アンタはたしかリアム・ダイクンッ! 家柄も低ければ才能もゴミな劣等生だったわね! そ、そんなアンタがわたしの頬に、平手打ちを……っ!」
赤くなった頬を抑え、こちらを睨みつけてくるエミリア。
うーん名女優だ。しかも知らない者のためにわかりやすく俺の名前とステータスを解説してくれるあたり、めっちゃ優秀だな俺の使い魔。
まぁそれは置いとくとして、今は演技を続けよう。
俺はカッコいい表情でエミリアを睨み返した。
「あぁそうとも。たしかに俺は家も才能も劣等だ。――だがしかし、おまえのように人格までも劣等に堕ちるつもりはないッ!」
「な、なんですって!?」
「エミリアよ。おまえは大きな力を持っているのだろう? ならばどうしてその力を守るために使わないッ! 『貴族』とは多くの民衆を率いる者の称号であり、暴虐者の別名ではなかったはずだッ!」
腕をバッと振るいながら訴えかける。
……ここで相手が本物のエミリアだったら『底辺が貴族語るなバカッ!』と叫んで容赦なく燃やしてきたことだろう。
だけど目の前にいるの俺の使い魔だ。彼女は周囲にもわかりやすく「う……ッ!?」と言葉に詰まり、わずかにたじろぐフリをした。
それによってちょっとコチラが優勢っぽい雰囲気が出始め、俺を馬鹿にした目で見ていた観客たちが「アイツ……」と目の色を変え始める。
「俺は劣等であるからこそ、心だけでも誇り高くありたいと願うッ!
それに比べておまえはなんだ? 他者を虐げて満足か!? そんな外道に誰がついてきてくれるというのだッ!」
堂々とした声でカッコいいセリフをバシバシ飛ばしていく。
するとさらに周囲の者たちの反応が変わっていき、俺を馬鹿にした目で見る者はいなくなっていく。
――あ、やばい。なんか気持ちよくなってきた!
昨日は欲望に負けてエミリアとアレな関係になっちゃったし、正直かなり憂鬱な気分だったのだ。
そこでさらに『エミリア』を公衆の面前で叱りつけるなんて失礼すぎるだろーと思ってたけど、みんなに認められていくのめっちゃ気持ちええやんッ!
変なスイッチが入った俺は、ノリノリで舌を回していく――!
「いい加減に気づけよエミリア! 周囲の者はおまえに従っているのではなく、おまえの家柄を前に屈服しているだけなのだッ! いつまでもそんな生き方を続けるつもりか!?」
訴えかけるようにそう叫ぶと、周囲の者たちも視線だけで同意し始めた。
さぁ終盤だ。俺の言葉を聞いたエミリアが、涙を浮かべながら吼え叫ぶ――!
「う、うるさいうるさいうるさぁいッ! 底辺ごときがわたしに逆らうなッ! いっ、いまさらそんなことを言われたって、わたしはこんな生き方しか知らないのよーーーッ!」
そうして周囲に無数の火球を浮かべるエミリア。
掠っただけでも骨まで焦げるだろうそれらを、俺に向かってぶつけてきた!
周囲の生徒たちが絶叫をあげる――!
だが、
「はぁーーーーッ!」
俺は拳に魔力を纏うと、高速の拳撃によって火球全てを殴り消していく――!
――魔力とは万能のエネルギーである。
魔法を発動させるのはもちろん、一か所に集めることで盾のようにしたり、単純に身体に流し込んで身体能力を強化することも出来るのだ。
まぁ昨晩までの俺ならそんなのまったく出来なかったけどな。
使える魔法が一つしかないほか、魔力量自体も少なすぎるゴミクズだった。
だがしかし、今の俺は違う。
エミリアと『魔婚の儀』を交わしたことで、彼女の超大量の魔力を全て自由に使うことが可能となったのだ。
それによってヤケクソみたいな身体強化を施し、無数の火球を次々と殴り消していく。
周囲の生徒たちから「なんだアイツはッ!?」「底辺じゃなかったのか!?」と驚きの声が上がった。
「なっ、なによアンタ! 魔法の才能がないんじゃなかったの!?」
「あぁそうとも、俺はショボい召喚魔法しか使えない。……だからこそ、身体を鍛え続けた!(※嘘)
領民たちを守るために厳しい修練を重ね、身体能力を高め続けたんだ!(※嘘)
そして辿り着いたのがこの戦法だ(※嘘)。わずかな魔力を拳の一点だけに集め、全ての魔法を殴って砕くッ!」
「なんですってッ!? その身体能力は、魔力による強化ではなく鍛錬によって会得したものだっていうの!?」
「あぁそうだ(※すごい嘘)」
そう応えると周囲の男子連中が「オォオオオオオッ!」と熱い声を上げた。
――うん、そりゃあロマンにぶっ刺さるよねッ! 『魔法の才能を補うために鍛錬を重ね、身体一つで天才を圧倒する男』とか完全になんかの主人公だもんね。
でもごめんねーッ! 全部嘘だから! 皮膚の下ではものすごい量の魔力をギュルギュル滾らせてるからッ!
しかもその魔力も、目の前の銀髪美少女とエッチして配給されたものだからロマンのかけらもないのだワハハッ!
はぁー死にてぇ。
これじゃあ俺ってヒモじゃねぇかと思いつつも、しかし周囲に尊敬されていく感覚が堪らない。
俺は迫りくる火球を叩き墜としながら、ゆっくりとエミリアに近づいていく。
「ひっ、やめて……こないで……っ!」
狼狽した表情を見せるエミリア。
絶対に本物はやらないであろう恐怖におののく様子を見せ、俺の『勝ちムード』を演出していく。
さてさて、それじゃあ作戦も締めに入るか。
このままエミリアを殴り倒したら周囲はドン引きだろう。
どんなにワガママな女だろうが、見た目は美少女で俺は男だからな。
女を殴る主人公は人気になれない。
というわけで、
――ぎゅっ。
「あっ……!?」
俺は、エミリアのことを優しく抱き締めた。
その行動に驚く生徒たち。だがそんな彼らを無視し、俺は彼女に微笑みかける。
「おまえは言ったな、『こんな生き方しか知らない』と。――ならば今日から生まれ変わればいい。俺が、おまえに新しい生き方を教えてやる」
そう言った瞬間、エミリアは「なっ!?」と声を出しながら頬を真っ赤に染めた。
「なっ……何を言っているのよ、この底辺貴族がッ! それに新しい生き方ですって!? そんなのっ、そんなの……わたしに出来るわけないじゃない。だってわたしは、誰かを傷付けることしか知らなくて……!」
「だったら学べばいいだけだ。……安心しろエミリア、きっとおまえは変われるはずさ。だって、今の自分を実はこっそり恥じているんだろう?」
「ッ、それは……!?」
さらに頬を赤くするエミリア。
驚きと恥じらいの混ざった見事にヒロインな表情だ。もう今年の主演女優賞はこの脳みそスライムに与えてもいいだろう。
もちろん周囲の生徒たちはそんなことまったく知らず、「そうだったのか、エミリア様……」と呟き始めた。
立場逆転からのいじめ展開とかはいらないからな。
コイツにはこれからも俺の側で役立ってもらう予定だし、許されるための流れを作る。
というわけで俺は彼女の頬に触れ、親指で目元を少しこすった。『泣け』というサインだ。
「うっ……うわぁああああああーーーーーんッ! わっ、わたし、わたし……昔から、教育係たちに『絶対に舐められるな、家のためにも女王のごとく振る舞え』って教えられ続けて、それで……それで……っ!」
よーし泣きの演技百点満点! あとでヨシヨシしてやろう!
さらにサラっとヘイトの矛先を教育係に向けるあたり流石だなッ!
俺は子供のように泣きじゃくる彼女を、もう一度強く抱き締めた――!
「大丈夫、大丈夫だ、エミリア……っ! これからは俺が側にいる。もう『公爵家のエミリア』として無理に振る舞うのではなく、普通の女の子として生きたっていいんだッ! おまえのことは、俺が守る――ッ!」
「うぅううううっ! リアムっ、リアムーーーーっ!」
そうして彼女も抱き締め返したところで、周囲の生徒たちも釣られて涙を流し始めたのだった。
ああ、もはやこの場に俺を底辺と罵る者はいない。
彼らが俺たちに向ける視線は、『教育によって歪んでしまった哀れなヒロイン』と『それを救った気高く優しい主人公』を見るものにかわっていた……!
「リアム・ダイクンッ、おめぇ男だぜ……!」
「今まで馬鹿にしてて悪かったッ!」
「エミリア様、泣かないでっ! わたしたちも支えるから!」
拍手さえも送りながら温かい声をかけてくれる生徒たち。
そんな彼らに囲まれながら、俺とエミリアはニヤリと小さく笑うのだった……!
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