2:処女膜損失RTA
大貴族の娘であるエミリアをスライムにしてしまった後のこと。
俺は彼女(?)の勧めで、学園内に特別に作られたエミリア専用の別荘に向かった。
……普通は学園寮で暮らすことになるんだが、入学の際にエミリアが『底辺どもと集団生活なんて出来るかッ!』と言って作らせたそうだ。
本当にワガママでどうしようもない女だったな。
そんなことを思っている間に俺たちは別荘に辿り着いた。
「はぁ~いっ、わたしのお部屋にとうちゃーく!」
部屋に入るや、巨大なベッドに我が物顔で座るスライム。
どうやらエミリアの脳みそを食べたことで、彼女の記憶も引き継いでいるらしい。
慣れた手つきで小物入れからお菓子を渡してくれた。
「ありがとう……えぇと、スライムって呼べばいいか?」
「ううん、わたしのことはエミリアって呼んでいいからっ!」
ってそれでいいのかよ?
あくまでも身体の名前だろうし、てっきり愛称とか欲しがると思ったんだが。
……もしくはやっぱり、エミリアの記憶を引き継いでいるからそう呼ばれたいのか?
そんなことを考える俺に、彼女はとろけた笑みを浮かべ――、
「ふふふふっ……だって『わたし』がエミリアって呼ばれれば、ご主人様を傷付けたあのクソ女の持ち物はもう何もなくなっちゃうでしょう?
身体も、部屋も、そして名前も全部わたしのものになるの……! それってとってもステキだよね~?」
ってひえぇッ!? そ、そういう意図だったのかよ!?
え、こいつこっわッ! この寄生スライムこっわッ! どんだけエミリアのこと嫌ってたんだよ!?
漏れ出した狂気に思わず固まってしまう。
彼女はそんな俺の手を引くと、無理やりベッドに引き倒した!
「ってうぉぉ!?」
咄嗟のことで受け身も取れず、エミリアの身体を押し倒すような形になってしまう。
はじめて感じる柔らかな少女の肉感。銀色のさらさらとした髪が、俺の頬にくしゃりと当たった。
「なっ、なにやってんだよおまえっ!? それはエミリアの身体だッ! こんなことしたらっ、彼女に失礼じゃ……」
「ふみゅ? どうしてあのクソ女のことを心配するの? アイツはご主人様のことを蹴って、跪かせて、奴隷にすると言い放って、お母様のお弁当を台無しにしたんだよ? 普通に考えて死んでいいでしょ」
「いや、たしかにそうかもしれないけど……」
「あんな劣等な社会のゴミと違って、わたしはご主人様のことが大好きだよ? ご主人様はよく晩御飯を分けてくれたり、小さい頃は一緒にかけっこしたりしたよね」
少女の身体で無邪気に笑うスライム。
たしかにコイツとは仲良くやってきたと思う。
はじめて【召喚魔法】で呼び出せるようになってから数年、幼馴染か家族みたいに過ごしてきた。
「だからわたしねっ、ご主人様のために尽くしたいのっ! この女の身体を使えば大抵のことは出来るわ。たとえば、権力を強めたりね」
「なに、権力を……?」
「そう。ダイクン家は貴族の中でも最底辺で、支援してくれるような貴族仲間もいなくて困っているでしょう?
そこでご主人様が、わたしの協力を受けながら学園でのし上がっていくっていうのはどう?」
それは……ありかもしれないって思えた。
元々、親からは良縁を引っかけてくることを願って送り出されたんだからな。
将来の結婚相手はもちろん、災害で農作物が全滅した時などもしもの場合に備えて貴族仲間を作りたいと思っていたのだ。
「『エミリア』は次女みたいだからねぇ~。実家にお願いしてダイクン家を直接支援してもらうのは難しいけど、それでも才能は無駄にあるから裏からご主人様を支援できるよっ!
……それに、変な疑いをかけられたときのために庇ってくれる仲間は必要だと思うの」
「変な疑いって……あぁ」
そうだな、もしかしたらエミリアの身体を奪ってしまったことに勘付く者が現れるかもしれない。
それを誤魔化すためにも人望は必要になってくるだろう。バレたら一発で死刑だろうからな。
「スライム……じゃなくてエミリアの言うとおりだな。万が一にでも疑われないように気を付けないと。
ただそうなると、さっそく一つ問題があるんだよなぁ……」
そう言って俺は震え始めた手のひらを見た。
息もだんだん苦しくなっている気がする。典型的な『魔力切れ』のサインだ。
「使い魔を実体化させ続けるには魔力が必要になるんだよなぁ。俺、魔力の量は少ないし回復も遅い底辺だからどうするんだよ? おまえが一旦消えちゃったら、その身体はどうなるんだ?」
「あぁ、『エミリア』の人間性と同じく腐っちゃうかもね。今はわたしが脳みその代わりをしてるから」
って大問題じゃねえか!? あとおまえ『エミリア』に対して本当に辛辣だなオイッ!
「いやいやいや冗談抜きでまずいだろそれ……お嬢様が死体で見つかったら学園中大パニックになるぞ」
俺がそう焦っていた時だ。
エミリアは小さく微笑むと、俺の頬に唇を当ててきた――!
「んなぁ!? こ、こんなときに何やってるんだよ!?」
「うふふふふ……ねぇご主人様、『魔婚の儀』って知ってるよね? 他人と魔力を共有できるようになるってやつ」
っ――『魔婚の儀』。それは主に結婚した夫婦が初夜で行うものだ。
特殊な魔法陣を設置し、その上でお互いに心からの合意の下で純潔を捧げ合い、魔力を直結させるのである。
「『炎よ刻め、ファイヤ・クロー』」
ポツリと呟くエミリア。
その瞬間、ベッドの下の床に魔法陣型の焦げ目が出現した。
つまりはこれで準備オッケーってことだ。
「っていやいやいや……それは駄目だろうッ! そんなことしたらっ、『エミリア』に――」
悪い、という言葉を続けることは出来なかった。
喚こうとした俺の口を、目の前の少女が唇で塞いでしまったからだ。
「んっ――ねぇご主人様、他の女のことは考えないで。今アナタの目の前にいるのは、このエミリアなの……!」
そう言って俺の背中に手を回すエミリア。
少女の細い腕に抱かれ、俺たちの距離は完全にゼロとなる。
「い、いやっ、やっぱり、それは……!」
抵抗しようとする俺だが、なぜか身体が言うことを聞かない。
動悸は異様に速くなり、潤んだ瞳で俺を見上げる銀髪の少女から目を離せなくなる。
そんな俺を見て嬉しそうに微笑むエミリア。
彼女は俺の耳元に唇を寄せると――、
「ねぇ、お願いご主人様。エミリアの身体を、滅茶苦茶にして――?♡」
「っ――」
その瞬間、俺の目の前が真っ赤に染まった。
※エミリアちゃんがリアムくんと出会ってから20分くらいで失ったもの
→身体、名前、部屋、立場、尊厳と魔力(NEW!)
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