1:奴隷が出来ました!
――俺、リアム・ダイクンの家は最底辺の男爵貴族だ。
土地は痩せていて農作物なんてほとんど取れない。
しかも次期当主である俺は魔法の才能に乏しく、最弱モンスターのスライムを一匹召喚するのがやっとなんだからもう最悪だ。
そのため王都の貴族学校に入学した日、俺はさっそく校舎裏に呼び出されてイジメを受けていた。
「――アンタが噂の底辺野郎ね! ほら、跪いてこのエミリア様の足を舐めなさいっ!」
そう言って俺に蹴りを食らわせる銀髪の美少女。
彼女の名前はエミリア・フォン・フォーマルハウトといって、公爵家のお嬢様だ。
貴族の中でもその地位はトップで、しかも炎魔法のエキスパートだというのだから不公平すぎる。
彼女と俺の同じところなんて15歳であることくらいだろう。
「おらっ、早く四つん這いになりなさいよ!」
「うぅ、わかりました……」
屈辱で泣きそうになりながら跪く。
どうせイジメられるとわかっていたから貴族学校なんて行きたくなかったが、両親からは『金持ちの嫁さんを掴まえて我が家を救ってくれ』とお願いされてしまったのだ。
そんなの無理だろ絶対……。
「クククッ、わかればいいのよ。いやぁ~アタシって完璧美少女だからさぁ、アンタみたいな底辺野郎を見てるとストレスが溜まるのよねぇ。だからアンタは卒業までの三年間、エミリア様の奴隷決定ね!」
「なっ、そんな……!?」
「アァッ!? 文句あんの!? 燃やすわよッ!?」
手のひらに火球を出現させるエミリア。
その炎の勢いと彼女の剣幕にビビり、俺は「わかりましたッ!」と惨めに頭を下げてしまった。
自分の情けなさに腹が立ってくる……。
「あははっ、それでいいのよ。……ところで、アンタが持ってるその包みってなんなわけ?」
ふとエミリアが俺の手荷物を指差した。
ああ、これは……。
「えっと、母が作ってくれたお弁当です。これから卒業するまで手料理をあまり食べさせられないから、せめて入学式の日くらい食べてって……」
俺がそう語った瞬間だった。
エミリアは「ハッ、くだらねー」と嘲り、弁当箱を蹴り飛ばしたのだ!
母の手料理が校舎裏にブチ撒けられた。
「なっ……!?」
「あーあっ、ママのご飯が食べられなくて残念ねー! ぎゃははっ!」
嘲り笑うエミリア……その言葉を聞いた瞬間、俺の中でブチっと何かが切れた!
俺は勢いよく立ち上がると、彼女の顔に手のひらを突きつけた!
「っ、なによ!? スライムしか召喚できないらしいくせにやろうっての!?」
「あぁそうだ、覚悟しやがれ!」
馬鹿なことをしているのはわかってる。
だが、親の料理を台無しにされて怒らないヤツはもう男じゃない!
「スライムだって顔面に張り付かせれば窒息くらいはさせられる! 食らえエミリアッ、【スライム召喚】――!」
そうして俺が魔法を唱えたときだった。
俺の予想では、彼女の顔面にスライムが現れる……はずだったのだが、次の瞬間、
――グチュゥッ! モグモグッ、チュブゥッ!
「えっ?」
……スライムはなぜか現れず、代わりにエミリアの頭の中から変な水音がした。
そして「おッ、おッ!?」とよくわからない声を出しながら白目を剥いてしまうエミリア。
そのまま彼女はぐったりと倒れてしまうのだった。
……って、まさか、
「お、俺ッ、こいつの頭の中にスライムを召喚しちゃったのかーーーーー!?」
いやいやいやいやっ、人の体内に召喚ってそんなの出来るのかよ!?
ってそれについては後回しだ。とにかく今は彼女を医務室に運ばなくては!
そうしてエミリアを抱きおこした時だ。
彼女は静かに目を覚まし、俺のほうを見て……、
「――あっ、ごしゅじんさまだ~~~っ!」
「ええっ!?」
とろけたような笑みを浮かべ、俺に抱きついてきたのである!
ってまさかッ、
「ご、ご主人様っておまえ、もしかしてスライムなのか!?」
「うんそうだよ~っ! この女の脳みそをゴックンしたら、喋れるくらいかしこくなったのー!」
ついでに身体ももらっちゃったーと無邪気に笑うスライム。
……こうして俺は入学初日に、大貴族の娘を使い魔にしてしまったのだった……!
って、どうしてこうなったーーーーーー!?
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