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AIはヒトの知性を超えるだろうか

作者: 青羽 真

ヒトとAIの違いは何か。そんなことを考えていた時に思いついた作品です。

 ある所に60代後半に差し掛かった研究者がいた。彼は大きな不安を抱いていた。

 彼の友人が脳卒中で倒れ、記憶障害を負ってしまったと聞いたのだ。幸い日常生活に大きな支障はないそうだが、昔の記憶が思い出せなくなったらしい。

 彼は、この話を聞いて、すごく不安になった。彼は「大切な思い出を失ってしまうのは、まるで別人になってしまうようで怖い」と思った。

 その数週間後、彼の父親から電話がかかってきた。彼の母親(90代)が患っていた認知症が急に悪化したそうだ。判断力が低下してしまったそうだ。

 彼は、この話を聞いて、再び不安を覚えた。判断力が低下し、彼の生きがいともいえる研究が出来なくなることが怖かったのだ。


 そのような感情が原動力になり、彼は今まで以上に研究に勤しむようになった。彼の研究テーマは「義細胞」についてだ。「義足」、「義手」は人工的に作られた「足」や「手」であるが、彼は人工的に「細胞」を作ろうとしていたのだ。血管中、組織液中に入り込める程度のナノロボットであるそれは、普段は体中をパトロールしており、万が一どこかの神経細胞が死んでしまった際に、そこの機能を補う機能がある。この研究が成功すれば、記憶や判断力が失われることを未然に防ぐことが出来るのではないだろうかと考えたのだ。


 五年後、彼は試験管と向き合っていた。中には液体が入っている。濁った水にしか見えないその中には数万個のナノロボットが含まれている。動物実験は済ませていたし、ヒトの細胞を使った実験もin vitroにおいては成功していた。自身の研究結果についての論文を書き始めるより先に、彼は意を決して試験管の中身を自身の血管に打ち込んだ。

……

………

 数日たっても健康に支障は出ていない。ひとまず害は無さそうだ。

 彼はこの研究を論文にした。世界中が戦慄した。細胞と同レベルの機械を作るのは不可能とされていたからだ。

 ところが、多くの実験がなされるにつれ、ある事実が発覚した。ヒトの免疫機能がナノロボットを破壊するケースがあるという物だった。

 実際、彼は彼自身の血液を採取して検査すると、パトロールしているはずのナノロボットの数が激減していることに気づき、何度か再注射を繰り返している。結局、血液中を巡回するという彼の構想は失敗の終わったのだった。

 それでも、彼の研究成果により、より精密な義手や義足が誕生したり、ナノロボットの技術を応用した災害救助ロボットが生み出されたりした。彼自身の夢は失敗に終わったが、彼は数々の賞を受賞し、多くのマスメディアのインタビューに応え、多くの著書を残した。彼の研究は、というより彼の人生は実を結んだと言えるだろう。


 数年がたったある日、彼はなんとなく自身の血液を検査器にかけてみた。すると、なぜか、ナノロボットが数は少ないものの何体か残っていることに気が付いた。この結果は「ナノロボットは免疫系によって破壊されるケース」と矛盾する。数年前にナノロボットの注射を辞めたのだから、今血液中にナノロボットがいるという事は「数年間免疫系が攻撃しなかった」ことを意味する。


 彼は思った。「自分の体の中では、実は、免疫系によるナノロボットの破壊は元から起こっていなかったのではないだろうか」と。「時間が経つとナノロボットの数が減っていたのは神経細胞の異変を察知し、損傷個所の修復を行っていたのではないだろうか」と。

彼は自身の脳をスキャンして、だいたい全脳細胞の何パーセント程度がナノロボットに置き換わっているのかを調べることにした。

……

………

 結果は100%だった。



 後から分かったことだが、彼は重度の神経系の疾患を患っていた。注射しても注射してもナノロボットが血液中から消えていたのは、彼の脳内の神経細胞が死んでしまう毎にナノロボットが救済していたからだったのだ。もしも、彼がナノロボットの注射を行っていなかったらとっくの昔に彼は思い出も判断力も失っていただろう。


 さて、100%の脳細胞がナノロボットに置き換わった彼はもはや彼自身ではないのだろうか。そうだとすると、いったい何%の脳細胞がナノロボットになった時点で彼は彼自身ではなくなったと言えるのだろうか。

 何億もあると言われる神経細胞の内の一つでもナノロボットに置き換わった時点で彼は彼でないというのは言い過ぎなように思われる。これは、「欠けた歯に詰め物をした時点で人はヒトで無くなる」と言うと少々言い過ぎであるのと同様だ。


 結局、このように考えると、ヒトと「人工頭脳」の差は無いのではないかと思われる。(2020年現在、)ヒトはAIと違ってクリエイティブなことを出来ると言われることがある。しかし、物語に出てきた主人公は脳がナノロボットに置き換わった後も、インタビューに応えたり、執筆活動を行ったり、実に「人間的」で「クリエイティブ」な活動を行っている。「ヒトに出来て人工頭脳に出来ない事柄は存在する」とは言えないのではないだろうか。


 最期に追記しておくことがある。この物語の主人公は「死」を迎えることがなくなった。彼は自身の研究を満足するまで行う事が出来たそうだ。

 しいて言えば、人工頭脳とヒトの決定的な違いはこれかもしれない。人工頭脳は寿命に縛られることなく新たな知識を追い求め続けることが出来るのだ。

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