28 vsサンドワイバーン
(まずはいつも通り様子見と、知識と現実との乖離埋めをしたいところだが……)
ジンはそう考えつつも、先程のアンドレの言葉通り出し惜しみをしている余裕はなさそうだ、とも思う。
サンドワイバーンのレベルはジンと同じ24。ただしその能力値はダンジョンのボスらしく、タルバンのダンジョンで出会ったどの魔物よりも高い。特に物理防御に関しては折り紙付きだ。
2対1の戦いは、素早さに勝るジンたちが先手を取った。アンドレの斬撃とジンの投げナイフがサンドワイバーンに襲いかかる。が、
『むうッ……硬い、の』
「わかっていたが、普通の攻撃はダメージがほとんど無いか! ……離れろ!」
キィン、という甲高い音で弾かれた攻撃と、サンドワイバーンのリアクションの無さからジンは判断してアンドレを後退させる。
今回は、アンドレが前衛で攻撃を行い、ジンが後衛に立ってサポートを行うという役割分担をした。
元々攻撃力の弱い盗賊では、EWOの知識上ろくなダメージが入らないためだ。
「ギャオオオオオオオオオオ!!」
今度はこちらの番とばかりにサンドワイバーンが吠え、走り出す。
巨体と重量に任せた体当たり。極めて原始的であるが、物理防御の低いジンたちが食らえば大ダメージは必至だ。
「だが遅いな!」
しかし大ダメージを受けるのは、当たればの話。
元々後衛で距離が離れていたジンはもちろん、事前に退かせていたアンドレも体当たりを難なく回避。さらにはサンドワイバーンを左右から挟み込む形になる。
『“強化斬撃”!』
「シッ!」
すれ違いざまにアンドレは現状最強の攻撃をワイバーンの右から一点に叩き込み、ジンは大量の投げナイフを左側から広範囲に投げまくる。
「ギャエエエエ!!」
サンドワイバーンは体当たりの勢いを殺さず、左右の翼を使って飛び上がった。巨体のせいか、それなりに遠い位置のジンやアンドレにも風が押し寄せ体制を崩しそうになる。
ダンジョンの中とはいえサンドワイバーンに合わせてかフロアの天井は高く、その足先がジンの頭よりも高い場所にあった。
攻撃が届かないほど高所に逃げられなかったのは幸いとも言えるが、高い位置に陣取られる事はデメリットでしかない。
(しかも攻撃が効いてない……いや、そこまで絶望的じゃないみたいだ)
ジンはサンドワイバーンが難なく飛び上がったことからアンドレの斬撃すら効いていないのか一瞬考えた。
しかし微妙に左右の翼の動きが異なること、そしてアンドレが己の剣から血を払っていることからダメージはあると判断し、安堵した。
これで攻撃が効いていなければ完全なる詰み状態だった。
「いいぞアンドレ! だが乱用はできなさそうだな!」
『魔力消費の割に手応えが少ない。あまりやるべきではない、の』
ジンから投げ渡された下級魔法薬を身体にかけつつ、アンドレは再び双剣を構え直した。
するとサンドワイバーンは、2人が追ってこないことを理解してか次の行動を起こす。
「グォォォォォォォォン!!」
先程までとは異なり、犬の遠吠えに近い鳴き声を出す。顔は真上を向いており空中にいること以外は隙だらけのように見える。
しかしながら、ジンは警戒をさらに強めて叫ぶ。
「魔法が来るぞ!」
『どうする!?』
「合図で右に向かって走れ! 3、2、1、今!」
ジンの合図と全く同じタイミングで、サンドワイバーンがアンドレに向かって強く翼をはためかせた。
飛び上がる時の風圧とはまるで違う、明確な威力を持った風がアンドレのいた場所を通り過ぎていった。
少し遅れて、ダンジョンの壁に半球状の穴が開く。
そんなダンジョンの様子を、アンドレは二度見して呟く。
『あれは冷や汗ものだ、の』
「確かに威力は並の魔法使いを超える。だがあいつの魔法攻撃はわかりやすいし、“ゲイルブラスト”も“ロックショット”も同じような軌道を描く。予備動作さえ見逃さなければ大抵は避けられるはずだ、そしてここからはチャンスだ」
『それはどういう……いや、わかった』
言い終わると同時に駆け出したジンをアンドレが追いかける。
(サンドワイバーンは魔法の使用後、必ず地面に降り立つ。ここは知識通り!)
先行するジンは、サンドワイバーンの足元に到達。絶好の攻撃チャンスに選んだ攻撃方法は、
「“ポイズンナイフ”!」
外側が硬い敵には内側からという鉄則をもとに、ナイフを突き立てる。明確な手応えがあったことにニヤッと笑い、そのまま“観察”を発動させたところで、ジンの視界が急に回転を始めた。
数瞬後、壁に全身が叩きつけられるまで、ジンは何一つ抵抗できなかった。
「ギェェエ!!」
「ぐほっ……」
ジンは、サンドワイバーンの足には邪魔な岩が付着していないこと、巨体の足元では魔法やかみつきを当てることが難しいこともわかっていた。間違いなく計算し尽くされた一撃だった。
——誤算だったのは、防御が比較的弱いためにダメージが思いの外入ってしまったこと、痛みによる反射的な抵抗を考慮していなかったこと、この2点だ。
(意識はあるけど、ダメージキツすぎだろ……これに加えて“カウンター”だったら即死じゃないか?)
『ジン! 回復に専念しろ!!』
アンドレの果敢な追撃を眺めながら、ジンは忠告通りに中級回復薬の瓶を開けすぐに身体に振りかける。
すぐに痛みが引いていくのがわかったが、それでもまだ全身に微かな怠さを感じていた。
(俺の耐久が上がったのか、服用の方が効果が高いのか……わからないが2本目を飲む余裕はなさそうだ)
アンドレから視線を外し、自分の方を向くサンドワイバーンに警戒を強めて短剣を握りなおす。痛みの記憶なんぞ関係ないと意気込んだ矢先だった。
サンドワイバーンの顔がジンを通り過ぎて真後ろ、ジンたちの入ってきた方向に向けられた。
その視線の先には、見知った2人の姿。
(なんで、あいつらがーー)
彼らには確かに階段の中程、ボス部屋の外で待機してもらっていた。この目でそれは確認している。
にも関わらず、こちらの希望を全く無視して乱入なんてことは、あの2人の性格から考えてもあり得ない。
「ソル、テレンス、逃げろ!!」
何が何だかわからないまま、ジンは叫んでいた。




