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24 種明かし 2

 首だけ回してソルと会話するジンと、全く自分の姿を見ていないことに苛立ったか、急に距離を詰めてくるリビングメイル。


 ジンの視界には恐怖で青ざめたソルの顔があり

、リビングメイルは文字通り眼中にない。


(魔物の強さとしてもその通りなんだけど、な!)


 袈裟に切り下ろされるリビングメイルの剣を、ジンは()()()()()()()()短剣で流しにかかる。


 何倍もある刀身をこともなげに受け流すジンの姿は、ソルやテレンスの中の武術の達人のイメージと結びつかせ更なる興味を湧かせた。


「これは盗賊(シーフ)のスキル、“気配探知”の応用。目で見なくとも敵の位置と姿がわかる。そしてこれが盗賊(シーフ)が覚える唯一の戦闘用魔法」


 ジンが説明中に、何度も剣と短剣の擦れる音が響く。うるさいくらいの音だっが、ジンが言葉を切ったタイミングでリビングメイルの剣が地面を叩いたことで、一瞬の間が生まれる。


「“スモーク”」


 ジンはそこを突き、リビングメイルが更なる反撃に出ようとする前に魔法を発動。1人と1体を濃い霧の中に閉じ込めた。


「「…………」」


 ソルとテレンスは、魔物の前であるというのに全く動かなかった。魔物への恐怖よりも、ジンへの興味が勝ったためだ。


 効果時間の短い“スモーク”は、緊急時の撤退の起点作りに使われる。その上取得レベルの都合上、使い手がそもそも少ないというのが2人の認識だが……今の状況は明らかにそうではない。


 そして3秒後、煙がぱっと晴れる。


 煙が晴れた先には、無傷でジンを探すリビングメイル。中身のない兜を忙しなく左右に動かしていた。


『魔物より後方だ』


 2人がアンドレの言葉通りにリビングメイルの後方を見ると、身を低くしてリビングメイルに走り込むジンを見つけることができた。


 そしてそのままの勢いでがらんどうの鎧の首部分を短剣で一突き。瞬く間に魔物が動かない鎧屑となった。


「大体こんな感じだな。盗賊(シーフ)が取得するスキル“気配隠蔽”。これと“スモーク”とかで自分の姿を見失わせて背後から暗殺……と、どうした?」


 元いた場所に戻って解説を始めたジンだが、2人とも表情があまりよろしくなかったために言葉を止めていたを


「私、じっと見ていたのに何が何だかわかりませんでしたわ……」


盗賊(シーフ)のスキルには明るくないんだが……ジン、その動きも速さもスキルによるものか?」


「どうだろうな。“素早さ強化(小)”、“器用さ強化(小)”のスキルはあるが、効果を考えればレベルアップで能力が上がってるって考えた方が自然だろうな」


 自分がどれくらいのスピードなのか、第三者が感じるスピードがどれほどかわからないジンは、EWOの知識をもとに答える。

 能力強化の(小)での上昇率は10%。この程度では、低レベルの基本職である現在は効果が薄いからだ。


 ただ、特にテレンスの方は受けた印象が違うようで、腕を組んで何やらうんうんと唸っている。


「とすれば、高レベルの盗賊(シーフ)はこうも容易く先手を……ん?」


 そして何かに気がついたように突然顔を上げた。


「あの襲撃の場には、“気配隠蔽”を無効化する“気配探知”のスキルを持つ弓使い(アーチャー)も多数いたはずだ。今の戦法は通じないんじゃないか?」


「よく気がついたな、確かにその通りだ。“気配隠蔽(小)”は、弓使い(アーチャー)が持つ“気配探知(小)”で無効化できる。しかも“気配探知(小)”の取得レベルは1。最初から持ってるんだから驚きだよな」


 とジンは笑うが、すぐに表情を引き締める。


「でもそれはレベル1とか10とかの話。盗賊(シーフ)はレベル22でそれを強化した“気配隠蔽(中)”を取得できる……これが分かっているなら冒険者ギルドに盗賊(シーフ)がもっと増えると思うんだけどなあ」


 EWOプレイヤーのジンとしては常識的な内容を述べているが、同時にこの世界に生きる人々にとってレベル20台が相当遠いものであることも知っている。


 なにせレベル20は冒険者としては上から3番目の階級、魔鉄(ミスリル)のラインと言われているのだ。


 そのためソルたちが目を見開いて驚くことに疑問は持たないし、驚き返すような真似もしない。


「お、おいジン。お前今、レベル22と言ったか?」


「ああそうだ。正確には今の俺は盗賊(シーフ)レベル24。皆の言う職業変化……だったか? 残り1レベルのところまでなんとか成長できた」


 ジンは詳しく語らないし語るつもりもないが、ソルたちが来る前のインプ騒ぎが大きなレベリングポイントだったと振り返る。


 あの時帯同していたのは、武装こそしていたものの日和見気分のギルド職員のみ。インプを始めとした大量の魔物をジンは1人で丸1日狩続けたのだ。


 お陰で多くのレアドロップアイテムと、ついでに経験値を得ることができた。


「なんという……ジン様はまもなく英雄となられるのですね。私、そのような方と親交を結べたことに大変嬉しく思います」


 ソルは令嬢らしく非常に上品な礼——ジンは知るよしもないが、貴族の行う礼としては最上級のもの——をジンに対して行った。


 主人の動向に敏感なテレンスもこれは想定外だったらしく、少し遅れて礼を行う。


無職(ノービス)であった時からわずか2ヶ月足らずで英雄の領域……か…………にわかには信じられないが、あの速さを見れば納得せざるを得ない。とんでもない男だな、お前は」


「それほどでもないさ」


(本当にそれほどでもないんだよな。たった24レベルの基本職なんだから)

 

 ソルやテレンスの、ともすれば憧憬とも取れる視線や賞賛を受けてなお、ジンは非常に冷ややかな気持ちのまま受け答えをしていた。


 ジンの目標は、既にアンドレに宣言した通りレベル99。そして職業(ジョブ)はおそらくこの世界の人間が誰も知らないであろうEx職の財宝探索家(トレジャーハンター)


 それを考えれば基本職の上限であるレベル25なんて、ただの通過点でしかないのだから。


 そんなことを思っていると、礼を解いたソルがジンの立場でも最も不可解な内容を投げかけてきた。


「でしたら尚のこと、疑問がありますわ。それほどの力を持つジン様がなぜ命を狙われたのでしょう? 確かに集団でかつ遠距離攻撃のみで立ち向かえば勝ち目はあるかもしれませんが、刺客たちも相応の被害を受ける事は火を見るよりも明らかですのに」

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