表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/121

23 種明かし 1

 いつものように冒険者タグを見せ、巨大な洞窟の中に足を踏み入れたジンたち。


 ジンは領主の娘のソルがダンジョン入りするのは大丈夫かと思っていたのだが。


(幸運と言うべきか、根回しが良いと言うべきか……)


 ソル自身が冒険者ギルドと繋がりがあることが伝わっていたのか、特に大事にならずにダンジョンの土を踏むことができた。


 更にはジンたちへの襲撃がそこそこ距離が離れているはずのダンジョン周りにも伝わっていたらしく、野次馬で人が出払っているというのも大きかった。


(まずはここに簡易的な拠点を……焚き火と椅子くらいでいいかな)


 町から切り離され、まばらな雑踏すら消えた中、ジンが持ち込んだ野営品を組み立てる音だけが響く。


「用意はこんなもんかな。さて……」


 ジンは人数分の折り畳み椅子を並べた後、大きく深呼吸をして、自分は椅子に座らず地面に腰を下ろした。


「まず最初に、突然ダンジョンなんかに連れてきて申し訳ない。ただ、俺は魔物が来ない限りは動かないし戦う気もない。安心してくれ」


 ジンは膝に両手の平を置き、背を丸めるように頭を下げた。


『ふむ、我はある程度聞いておったからまだしも、2人をここに連れてくる必要はあったのか、の?』


「襲撃された現場を見たんだ、何も説明しないままにはいかないだろう。それに外で話すと不都合なことを俺が口走るかもしれない……と、何が何だかさっぱりだよな」


 少し顔を上げてみると、テレンスがこちらを見下しながら腰の剣に手を置いていた。


「その通りだ。ダンジョンという危険極まりない場所に、詳細な説明もなしにお嬢様を連れてきたのだ……あの惨状のように、お嬢様を害す可能性だってあるだろう」


「私は流石にそこまで考えてはおりませんが……しっかりとした説明を所望しますわ」


 見下すのではなく、真剣な眼差しで見つめてくるソル。

 数十人の刺客が殺された凄惨な現場を見たにも関わらず、ジンの記憶の中のソルと同じ態度で話してくれている。


 それが強がりなのかは不明だが、態度が変わらずにいることは非常にありがたく感じた。


「ふぅ……とりあえず隠し通路付近での話だな。あいつらは俺たち2人を殺そうとした。ご丁寧にソルとテレンス、2人の変装をした囮まで用意してな」


「囮、ですか?」


『うむ。2人とこれまで直接会っていない我が見るに、背格好も服装も口調も瓜二つと言って良い。正直、ジンが偽物だと看破できた理由が見当もつかぬ』


「それほどまでに高度な変装ですか……」


「ジン、その囮とやらは何か特徴的なものを身につけていなかったか?」


 テレンスの探るような質問に、ジンは首を横に振った。


「いや、2人が今身につけているもの以外には特に無かった。持ち物を調べようにもあの有様だ」


 ジンたちは襲撃場所から去る直前、囮役の2人の装備を確認していた。


 彼らが使用していたのは、アンドレが用いたのと同様に“イリュージョン”が有力だとジンは考えていた。それらの効果を持つアイテムを身につけているか確認するためだ。


 しかし、ジンのEWO辞書に引っかかるものは確認できなかった。

 刺客たちの放った魔法で死体以外は跡形も無くなっており、調べられなかったと言ったほうがより正確ではあるが。


 テレンスはジンの答えに、腕を組んで自らの記憶を掘り返し始める。


「何も確認できなかったということは……布系の脆い魔道具だったか、指輪等の他人から見えづらい小物に付加されてた可能性が高いな。どちらにしても」


「どちらにしても、非常に高価ですわ。それを2つともなると……用意できるのは普通の組織ではありませんわ、ね……」


 そう言いながらもソルが俯く。テレンスも腕を組んだまま唇を噛み締めていた。


「恐らく考えていることは全員同じだろう。今回の襲撃はここの領主、あるいはそれに非常に近い人物が関わっている」


 まあ首謀者に確証を持ったのは、魔道具じゃなくてソルたちが現れたからなんだけどな。とジンは続けて2人に話す。


「あの場所で俺を殺せば、全く移動することなくソルたちを始末することもできたわけだ。これを偶然とするのは無理があるし、隠し通路の場所を知っているのは伯爵家の人間のみ、そうだろ?」


 2人は真剣な顔で頷く。

 ジンは確認が取れて安堵すると同時、呆れるような視線を彼女らに向けた。


「それにしても本当に隠し通路を通って来るとはな。あそこが最も警備が厚いとは考えなかったのか?」


 ジンは元々、彼女らがどのように街に入って来るかが分からずにいた。


 正面からは論外として、隠し通路は相手——ソルを屋敷で襲撃した人物も知っている可能性は高い。


 そんな中で町にすんなり2人が現れたことに疑心を抱いたのがきっかけだった。


「勿論警戒はしていましたわ。私の魔法で探知を行いつつ通路は通ってきましたの……ただ、その先があのような状態だとわかると体が勝手に……」


「実際手厚い警備であったとしても、警備レベルであればお嬢様の魔法で強行突破はできる。お嬢様のお力はそれほど強いのです」


「強いか……まあ、事実だな。ところでソル、今の職業(ジョブ)レベルと種族レベルを教えてくれないか?」


 ソルは唐突な話題の切り替えに驚きつつも、一瞬テレンスとアイコンタクトを交わした後に答えた。


「お答えします。種族はレベル23、職業(ジョブ)魔法使い(メイジ)レベル18ですわ」


 ジンは、ソルの口から出た言葉が囮が言った情報と同じであることを確認してから次の言葉を紡ぐ。


「だったら“フライト”と“複数化”を使えばここに来るのも納得がいくな」


 ははは、と笑うジンに対し、ソルは大きく目を見開き両手で口元を塞ぐ。


「何故取得した魔法や移動方法がわかりましたの!? ハクタでの襲撃のことといい、職業(ジョブ)や種族が覚えるスキルまで……一体ジン様はどこでそのような知識を」


 捲し立てるようなソルの質問を切ったのは、ジンではなく隣に座るアンドレ。彼が急に立ち上がったことで注目が集まり、洞窟に静けさが戻る。


『待ってくれソル殿。何故、だと……? おいジン、まさか』


「そうだ。2人には俺自身のことはあまり多く話してこなかった。俺が職業(ジョブ)とかに詳しいことまでは知らないはずなんだよ……だからあの女の発言がおかしいことに気がついた」


 囮の女は、自分のレベルを告げた上でジンにこう尋ねていた。


 ——これだけでジン様は理由がお分かりになりますか?


(あの手の相手を試すような発言はマウントを取る意味合いが無いなら、相手に知識があるという前提で出てくる。ハクタからタルバンまでは、亜人間(デミヒューマン)魔人間(ヘルヒューマン)を町中で見かけたことが無いはず。特に種族レベルやスキルは知らないことを前提に、自分から説明するのが普通だろう)


 この発言が疑いを広げ、偽物だと確信を持ったのはその後の会話だ。


「実力把握のためにテレンスにも同じ質問をするが、今のレベルはいくつだ?」


「そうだな……今はレベル20だ」


「おお……これも一緒か。本当にかなり強くなったな、俺の背中を預けても問題なさそうだ」


 囮とした会話と同じような内容が繰り返されるが、ジンの予想が正しければ異なるのはこの後。

 アンドレもそれを分かっているのか、成り行きを真剣に見守っている。


 ジンの発言に対しテレンスはため息をつき、その上肩をすくめて答えた。


「私がお嬢様の命令抜きで、お嬢様以外を守るはずがないだろう。冗談も休み休み言え」


「……だよな、テレンスならそう言うと思った。ちなみに偽物のやつは全く別の答えをしたんだよ」


 テレンスがソル以外を自主的に守る? ジンにとってはそれこそ“冗談も休み休み言え”だ。


 その上で事実確認のために囮を殺害し、文字通り化けの皮を剥ぐことに成功したというわけだ。


「なるほど、ですわ……会話の中から見破るその知略は流石の一言です」


「まあ推論も多いし問題点も残ってるがとりあえずはこの辺で。次は返り討ちのやり方を教えるか。ちょうどよくお客さんも来たみたいだし」


 ジンたちがいる場所は、出入り口からすぐの開けた空間。そこからダンジョン奥に伸びる通路から、魔物が姿を表す。


「リビングメイルか。人型なんだけど今は違う方がよかったかなあ……まあいいや、始めるぞ」


「そんな気の抜けた状態では……ジン様!!」


 緊張感なく立ち上がり、首だけ回してソルたちと話すジンに苛立ったか、リビングメイルはジンとの距離を一気に詰めてきた。

種明かしはまだまだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ