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8 10体組手 ー後編ー

 ジンとアンドレに対するのは2体のハードリビングメイル。既に間合いに入っており、足を止めて剣を構えている。


 アンドレも同様に剣を構えて警戒しつつ、ジンとコミュニケーションを取る。短い戦術会議だ。


『一発撃破は無理でも、先程のように走り抜けつつ攻撃はできるか?』


「できるがやりたくはない。もう1体がどう動くかわからないんだ……バックアタックされれば最悪こちらの一撃死もあり得る」


 ジンはEWOでの全魔物のスキル、特徴、能力の傾向を記憶している。ただしHPや攻撃力の詳細なステータスまでは把握できていないし、現在の服や靴などの身につけるものの防御力は依然不明なまま。


 死の危険を冒してまでやることではない、とジンは判断していた。


『バックアタック。確か認識の外からの背後攻撃、だったかの。“気配探知”をもってしても認識したことにはならぬということか?』


「普段はそれでいいんだが、他ごとに集中していて“見えているけど見えていない”と認識外ってことになるらしい。全力疾走中ではそうなる可能性が高い」


『確かにそれならー』


 会話で集中が途切れていると判断したか、ハードリビングメイルたちがアンドレに襲いかかる。

 剣閃はそれぞれ袈裟と切り上げ、どちらか一方に対処すればもう一方が当たる絶妙な連携だ。


『無理がある、の!』


 しかしその連携はアンドレに届かない。バックステップで距離を取ることで双方の攻撃をかわした。さらに仕掛けてくる追撃には剣で払うように防御。


 流石はアンドレ、とハードリビングメイルの側面に回り込もうとしていたジンは自らに伸びる影に意識を戻される。


「ー!」

「今度は俺かよ!」


 剣を袈裟に下ろした方が、ターゲットをジンに変えて襲いかかった。振り下ろしたまま下段からの切り上げ、剣を返すようにして下段の足払い。


「くらえ!」


 これを跳躍して回避したジンは、牽制としてナイフを投げる。まっすぐ高速で飛んでいったそれは簡単に剣で弾かれた。


(だが着地までの時間は稼いだ!)


 地面に降り立ったジンは、反転して全速力でアンドレの元に向かう。アンドレが攻め手を欠いているように“気配探知”に映ったからだ。


「全力で斬れ!」

『! “強化斬撃”』


 アンドレがスキルを発動させると同時、ジンがハードリビングメイルの懐に入り込んで短剣で一閃。大したダメージは入っていないはずだが……


「ー!!」


 懐に入り込まれることを嫌ったか、ハードリビングメイルはジンを引き剥がすべく剣を薙ぎ払った。


「ぐぅぅ!」

『ハッ!』


 響いた金属音は2つ。


 1つはジンがも両手の短剣で、ハードリビングメイルの攻撃を受けた音。

 もう1つは、アンドレが鎧の一部を切り裂いた音だ。ただし“強化斬撃”でもダメージ量は多くないようで、ハードリビングメイルは動きを止めない。2体とも体制を崩したジンに追撃を仕掛ける。


『背を向けるとは舐められたものよ、の!』


 アンドレの剣がハードリビングメイルの鎧にいくつもの傷跡を作る。何本目かの剣筋が付いたところで、ハードリビングメイルの1体が振り向いてアンドレに剣を振るう。


(アンドレの行動は天然か? それとも経験から? ……どちらにしても最高の判断だ)


 ジンは体に多少のダメージを感じながらもそう思う。そして背中を向けたハードリビングメイルへと駆ける。


 ジンが行っているのは所謂ヘイト管理。注意や攻撃を自分に向けさせ逆に味方から逸らす、EWOを初めとした多人数プレイにおいては基本とも極意とも言われるテクニックだ。


 以前テレンスが使用した“挑発”はこれを手軽に行えるスキルではあるが、そんなものを使わなくてもやることはできる。

 要は相手の嫌うことーー今回に関しては、剣が不利になる程間合いにを詰めるか、ダメージを多く与えてやれば良いのだ。


「ー!!」


 ジンの短剣を背後から受けたハードリビングメイルは、またも剣でなぎ払おうとする。


(2度も同じ手が通じるか!)


 ジンはこれを前転して回避。一時的に無防備になるが、不安はない。


『そちらを向くなと言うておるだろう』


 再びアンドレの剣が閃き、剣の跡が一つ増えた。そのまま反撃が来る前に退避。

 傷だらけのハードリビングメイルはそのままアンドレを追い続けるが、ジンの“気配探知”はもう1体、自分の方に向かってくる鎧を捉えていた。


(いい所にいるじゃないか!)


 前転から起き上がる勢いのままその1体に突撃。全速力で懐に入ったかと思うと、真後ろで剣の起こす風を感じた。


「シッ!!」


 バックカウンターが決まる。


「ー!」


 流石にやりすぎて覚えられたか、剣の振り下ろしが終わるとすぐに後方へと剣を突いた。


(でも、学ぶのが遅すぎるし足りないな)


 既にジンは剣の届く範囲に居ない。

 向かうはアンドレと対するもう1体、のはずだったのだが。


『今度は我が助ける番だ』


 ハードリビングメイルは既に動かなくなっており、ジンとすれ違うようにアンドレが抜けていき、


『“強化斬撃”』


 その勢いのまま最後の1体を切り裂いた。


『これで全部か……』


 アンドレが剣を納める手を止め、そのまま固まってニの句を告げずにいる。

 ジンにもその原因が分かった。


(ハードリビングメイルだけが何体もいるって聞いた時点で予想してはいたけど、これはなかなか圧があるな)


 壁の中からハードリビングメイルがわらわらと湧いてきている。その数はざっと見ても20体。


 EWOでの通称はWave型。最初からいる魔物が全滅すると新しい魔物がフィールドに投入されるタイプの()()()()だ。


『あれらと、やるのか?』


 アンドレは敵を見据えつつも、少々狼狽えているようだった。

 無理もない、先程まで1体討伐するのに苦労していた奴らが、20倍になって襲ってこようとしているのだから。


「いや、今回は一度退く。やりやすい相手とはいえ消耗が思ったより激しいからな。ハードリビングメイル10体分の経験値……あと素材が戦利品だな。拾えるだけ拾って帰るぞ」


 EWO通りであればWave間の準備時間は30秒。


 その間にジンとアンドレはハードリビングメイルの死骸から、買取素材のヘルムを持って階段を登った。

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