7 10体組手 ー中編ー
ジンは敵全員の現在地を確認するために一度部屋の端まで距離を取る。気配探知(小)で敵を探れるのは10メートル先まで。部屋内全てを見通せるほどのレベルではない。
『問題ないか!?』
ジンが移動した場所は出入り口と近かったようで、アンドレが大声で話しかけてくる。
「大丈夫、想定通りだ! それよりも、敵は増えていないよな!?」
『増えていないぞ!』
「ありがとう!」
それだけ言葉を交わすと、ジンは彼らを見据えて動き出す。目線の先では入室時と同じく、全ての鎧が同じ動きでジンへと迫っていた。
(どうにか1体だけ群れから外せるか? 痛みを感じたりするならいけるだろうけど、難しそうだな)
ジンはついさっき戦ったストーンビーストや、普通のリビングメイルの様子を思い出して結論付ける。
「だったら、強行突破しかないよな!」
それくらいの博打ならやってやる。
確認できた中で最も近いハードリビングメイルに向かって、ジンは走り出した。左手には逆手に持ったシーフダガーが握られている。
「“ダブルダガー”」
ジンがつぶやくと、左手の短剣が淡い白色に輝き出す。次の攻撃のヒット数を2回に増幅させるスキルだ。
「ー!」
相対するハードリビングメイルもスキル発動に気が付いたか、動きを止めて剣を構える。どのリビングメイルも全く同じ、洗練された構えだ。
ジンはその様子に感心しながら、彼我の距離とタイミングを測る。
(3、2、1……)
ゼロ、とジンが心でつぶやいたのと同時、リビングメイルの剣が振り上げられた。
大振りの一撃が、来る。
そのまま食らえばかなりのHPを持っていかれるだろう。
(恐れるな、絶対に間に合う!!)
ジンがこれまでで最も強く、地面を蹴り出す。
側から見れば一気に距離を詰めるどころか、ぶつかるのではないかと思うほどの急加速。
その急加速の方向を、ジンは2歩目で少しだけ右にずらす。
3歩目で剣が振り下ろされるが、もうその軌道上にジンの体は無い。ハードリビングメイルと触れるか触れないかくらいの距離感ですれ違う。
そして、すれ違いざまに左手の“シーフダガー”を鎧の背中に突き立てた。ジンの進行方向とは真逆であるが故に、勢いはそれほど強くない。
が、ダメージ計算に関してはEWOのシステムが優先されることをジンは経験から得ている。その経験を信じてそのまま走り抜ける。
一瞬の間。
ガシャン、とハードリビングメイルは剣を振り下ろした勢いのまま倒れ込み動かなくなった。
ジンはそれを横目に確認しつつ、壁際で息を整える。
(強化無しでの物理最高火力、“バックカウンター”。実際に倒せるかは不安だったけど上手くいったようだ)
バックアタックとカウンターを同時に行う、通称“バックカウンター”。ダメージはそれぞれの倍率の乗算となり6倍に跳ね上がる。
更にジンは“ダブルダガー”を使用しているため、一撃の威力はなんと12倍。防御力の高いハードリビングメイルとてひとたまりもない。
EWOにおいてバックカウンターを狙って発動できる職業は限られており、せいぜい盗賊や剣士の派生上級職の一部。それもスキルを複数併用すればの話だ。
(加えて言えばリビングメイルの最初の行動パターンは1つだけ。考えなしに行動してくれるのもありがたい)
距離が遠ければ自ら距離を詰め、向かってくるのであれば足を止め、近づけば一撃目は大振りで攻撃をする。
少なくとも、初撃までの行動パターンは確認した限り同じだった。
ジンはぜぃぜぃ、と息を整えつつ敵の様子を確認する。
残った9体のハードリビングメイルたちはジンを一瞬見失っていたようだが、すぐにその兜をジンに向け、距離を詰め始めていた。
(時間当たりの経験値効率はかなり良いけど、“ダブルダガー”含め1体あたりの消耗が大きいのが難点。加えて増援あり。なら今は少しでも数を減らす!)
ジンは更に最も近いハードリビングメイルに突貫。“ダブルダガー”を使用してその仮初の命を奪う。
「次!!」
3体、4体、5体……と同じ行動で倒していく。それでも鎧達の行動は変わらず、ジンに対して距離を詰めては大振りの攻撃を繰り出す。
あらかじめ決められたアルゴリズムを逸脱しないことに、ジンは心の中でほくそ笑んだ。
が、6、7、8体目を倒した時に異変は起きた。
「ぐっ!?」
ハードリビングメイルに剣を突き立てた際にバランスを崩し足を捻ってしまったのだ。
慣性のままごろごろと地面を転がっていくジン。
「ち、畜生……」
口に入った土を吐き出して気合を入れるも、捻った足の痛みですぐに立ち上がれそうも無い。
「ー!!!」
チャンスとばかりに迫るハードリビングメイルたち。敵がピンチと理解できる能力はあるのか、とジンは舌打ちをする。
が、有事の時の行動はあらかじめ仲間と決めてある。
『ジン! 薬を使え! “死霊の威圧”!!』
アンドレの声と共に、放たれる殺意とスキル。
ジンの危険を感じたアンドレが階段から入室したのだ。新たな敵の参戦により、残る2体のハードリビングメイルが停止しジンから視線が外れる。
(今だ!)
「“スモーク”!」
ジンは風の祝福の杖の効果により、本来の取得レベルから逸脱した魔法を発動。瞬時にジンの周囲3メートルに煙幕が敷かれる。
(不甲斐ない、としか言いようがないな)
煙で目が利かない中、ジンはポーチから流れるように下級回復薬を取り出して自らの足にぶっかけた。
薬が足に浸透する頃に煙は晴れるが、ジンは弾かれたように立ち上がりアンドレと合流した。
「アンドレ、助かった……でももう俺の魔力は残ってない。これ以上の続行は」
『退く必要はないと思うぞ。幸い増援は未だ来ておらぬようだし、の。強敵を前に我が何もせぬまま戻るというのは、戦士としては辛いのだ』
剣を構えて闘気を漲らせるアンドレに、ジンは肩をすくめて鎧達に向き直った。




