表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/121

3 種族と職業

「このキャロル王国では、15歳に職業(ジョブ)を教会から授けていただけます。というか事実上の義務です。なぜなら無職(ノービス)の方では、文字通り職に就くことが難しいためです。これは兵士、農家、漁師、何でも同じです」


 ここはキャロル王国という国なのか。……EWOの中にそんな国の名前は無かった。

 ジンがそう思う間にも、更にマゼンタは続ける。


「冒険者ギルドでは、たとえ無職(ノービス)であっても冒険者として受け入れていますが、“剣士(ソードマン)”“戦士(ファイター)”“騎士(ナイト)”“魔法使い(メイジ)”“僧侶(クレリック)”“弓使い(アーチャー)”“盗賊(シーフ)”のいずれかの職業(ジョブ)、あるいはそれに類する職業(ジョブ)が得られるまで、町の外で活動を行う依頼を受けることはできません。そして次の職業(ジョブ)授与は、今から10カ月後になりますので、」


 続けようとしたマゼンタの言葉を、ジンが手で制する。


「ちょ、ちょっと待ってほしい。その、教会で受け取れるのは“基本職”だけか?“農家(ファーマ―)”や“勇者(ブレイブ)”はいないのか?」


「……? その、キホン職というのが何かはわかりませんが、一部の才能ある方を除いて、それ以外の職業(ジョブ)の方はいらっしゃいませんよ? 農家さんでも職業(ジョブ)剣士(ソードマン)だったりしますし、ましてや勇者(ブレイブ)は世界にたった1人しか産まれません」


「……ありがとう……少し考えさせてもらっても、いいか……?」


「……?? はい、どうぞ?」


 優しく丁寧に説明してくれるマゼンタには申し訳ないのだが、ジンは話を止めた。


(ここまでほぼEWOと一緒だったが、これは……どういうことだ?)


 ジンの頭は混乱し切っていた。


 15歳になれば職業(ジョブ)を受け取れる、というのはまだいい。EWOでも冒険が始まるのは15歳から、という設定だからだ。


 問題はそれ以外の職業(ジョブ)システムがあまりに違うことだ。




 まず、EWOにおける職業(ジョブ)は、無職(ノービス)を除いて大きく分けて3種類ある。


 先程マゼンタが言った、剣士(ソードマン)騎士(ナイト)魔法使い(メイジ)など、戦闘をメインに行う“基本職”。

 農家(ファーマ―)釣り人(フィッシャー)鍛治師(スミス)など、アイテムの生産や採集にボーナスがかかる“生産職”。

 そしてそれらの習熟の組み合わせで発生する“Ex職”。


 EWOのプレイヤーは、必ず最初に基本職を貰い、最終的にEx職を目指す。開放条件が厳しい分、キャラの能力も高くなるからだ。


 また、各職業(ジョブ)は基本的に3段階の階級がある。剣士(ソードマン)(下級)→上剣士(ハイ・ソードマン)(上級)→剣聖(ソードマスター)(最上級)という具合にだ。


 なお、職業(ジョブ)には隠し要素として派生上級職もある。剣士(ソードマン)からは上剣士(ハイ・ソードマン)の代わりに、大剣の扱いに特化し、相手の防御を崩す技にも長けた大剣士(グレートソードマン)、双剣の扱いに特化し、素早さと瞬間火力の高い双剣士(デュアルソードマン)、などなど。


 これらは下級の職業を転職可能レベルまで上げ、さらに特殊な条件を達成することで転職が可能になる。前述の大剣士(グレートソードマン)であれば、全長が1.5メートルを超える剣を使用して魔物を200体倒す、といった具合にだ。


 そして、種族ごとに異なるが、人間(ヒューマン)であれば最大で4つの最上級職と1つのEx職を修得できる。


 ——さてマゼンタの言葉では、この世界のごく一握りの人間しか上級職になれない。そうなると必然的に、その上の最上級職はまず存在しないことになる。加えて生産職もほぼいないだろうし、Ex職は全くないと言ってもいいだろう。


 なぜなら生産職に転職するためには、どれかひとつの職業(ジョブ)を上級への転職可能条件である25レベルよりも先、35レベルにする必要があるからだ。


 さらにEx職になるには複数の最上級職をレベル70以上にする必要があるため労力が殊更かかる。と言うよりほぼ不可能だろう。


 そうなると新たな疑問も生まれる。

 勇者(ブレイブ)が“産まれる”らしいのだ。


 言葉をそのまま捉えるのであれば、最初から勇者(ブレイブ)という職業を得ることになるのだが、これはあり得ない。


 EWOにおける勇者(ブレイブ)は4つの最上級職の組み合わせで得られるEx職であり、ついでに言えば人間(ヒューマン)最強の職業(ジョブ)の1つであるからだ。


 その組み合わせ元は、


 剣士(ソードマン)の最上級“剣聖(ソードマスター)”、

 魔法使い(メイジ)の最上級“雷皇(エレキマスター)”、

 騎士(ナイト)の最上級“聖騎士(パラディン)”、

 僧侶(クレリック)の最上級“聖者(セイント)”。


 近〜中距離では無類の攻撃力、防御力を誇り、回復魔法による継戦能力も高い。

 その名前の響きからも人気は高く、勇者(ブレイブ)だらけで強力なイベントボスに向かうのは、高レベルクランでよく見られる光景だった。


 ……イベントボスのレアドロップで沼に嵌ったことを思い出し、ジンは余計なことを考えないよう首を振って一度思考を切り替え直した。


(才能ある一部、という言葉を考えれば上級職になっているのは多く見積もってもランク半分より上、魔鉄(ミスリル)以上だろう。だがこの辺りの敵の強さを考えれば……まさか)


 人はその可能性に思い至り、顔を青くして尋ねる。


「すまない、またいくつか質問してもいいか?」


「もちろんです」


「さっき言った才能ある一部、の職業(ジョブ)と冒険者のランクはどれくらいなんだ?」


「そうですね……私の知る限りでは“上剣士(ハイ・ソードマン)”“戦士長(チーフ・ファイター)”“上位騎士(エルダー・ナイト)”“火炎魔術師(ブレイズメイジ)”“司祭(プリースト)”“射手(シューター)”“盗賊頭(ボス・シーフ)”、あとは先ほど申し上げた“勇者(ブレイブ)”と、“剣聖(ソードマスター)”くらいですかね……あ、“魔法使い(メイジ)”からは、“火炎魔術師(ブレイズメイジ)”以外にも色々な属性に特化した魔術師がいらっしゃるみたいですよ。冒険者ランクで考えると、ほぼ全員が王金(オリハルコン)以上です」


「そうか……わかった、ありがとう」


 ジンは再び考えに浸る。

 ここまでの話から現在の職業(ジョブ)にかかわる内容を考察すると、


(EWOと職業(ジョブ)システムが変わらないと仮定して、少なくともこのキャロル王国では職業(ジョブ)の昇格方法、特に派生上級職の昇格方法が知られていない)


 それだけではない。


(各地にあると思われる教会が、EWOに無いなんらかの方法で他者に職業(ジョブ)を付与している。……しかも付与する職業(ジョブ)にはEWOでは自然発生しないはずの上級職、最上級職が含まれる)


 であれば職業(ジョブ)を制限する教会の目的は何なのだろうか。

 そもそも教会は、EWO本来の職業(ジョブ)授与および昇格の方法を知っているのか。

 この世界では教会からの授与以外に職業(ジョブ)を変更できないのか……


 ジンが色々と思考を飛ばしていると、


「……ジン様??」


 マゼンタが不思議そうに彼の顔を覗き込んできた。


「ああすまない、また考え事をしていた」


 ジンは今、冒険者登録の受付中だ。EWOと異なる点を聞き逃して損害を被ったらたまったものではないし、規約などを見ていませんでした、では済まないこともあるのだ。


「いえいえ、大丈夫です……ジン様はいかがなさいますか? 無職ノービスでも登録は可能ですが町の外での依頼が受けられませんし、もちろんパーティを組んでくださる方もいらっしゃらないと思います」


「このままではメリットが薄い、ということだよな?」


「はい。もちろん町の中での依頼は受けられますが、はっきり申し上げますと実入りは薄いですし、それに」


 ジンは続くマゼンタの言葉をまたも手で遮る。


「いや、冒険者登録はさせてもらいたい。素材の買取もお願いしたいしな。このスライムの核はどれくらいの値段になるんだ?」


 そう言いながら、ポーチから4つのスライムの核を取り出してマゼンタの前に置く。


「なるほど、素材売却目的の登録ですか。それでしたら構いませんよ。ちなみにこのスライムの核でしたら、悪質な物でなければ1個100クルスですから合計で400クルスですね」


「わかった、その価格で売って問題ないから、登録の手続きをさせてもらってもいいか?」

ルビがあるのはEWOとしての職業、ルビがないのは冒険者や受付嬢のような本当の意味での職業、と使い分けをしていきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ